キリンホールディングス(HD)は、15%を出資するシンガポールの飲料・不動産会社、フレイザー・アンド・ニーヴ(F&N)の株式をタイの酒造大手、タイ・ビバレッジグループに約1496億円で売却、約470億円の特別利益を計上する。
キリンHDは2010年に約850億円を投じてF&Nの15%の株式を取得していた。これに対して12年夏、F&N傘下のビール会社アジア・パシフィック・ブルワリーズ(APB)の取得を目的に、タイ・ビバレッジ側がF&Nの株式を買い増しした。キリンHDはシンガポールの不動産会社オーバーシーズ・ユニオン・エンタープライズと組み買収合戦に参入したが、TCCが買収価格をつり上げたためF&N株式の売却を決めた。
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この“撤退”を市場は評価した。発表後の2月4日、キリンHD株は年初来最高値の1194円をつけたのだ。キリンHDはこれまで累計約1兆5000億円を海外M&Aに投じてきた。だが、豪州事業の不振でのれんの減損を迫られるなど、巨額投資に見合う利益は生んでいない。3000億円を投じた11年のブラジルのスキンカリオール買収時も株価は反応せず「キリンHDは買収を発表するたびに株価が下がる」(市場関係者)と言われたほど。今回、撤退が評価されたのはこうしたいきさつもある。
そもそも10年にF&N株式を取得して以降、傘下のAPBを通じシンガポールで一番搾りを販売したほかは確たる買収効果は挙げていなかった。F&Nはマレーシアとシンガポールの清涼飲料市場でトップシェアだが、キリンHDが保有していたのは不動産事業など飲料事業以外のセグメントを持つF&Nグループの株式。飲料事業部門での協業などは手付かずだった。東南アジアは有力企業が限られ、M&A時の価格のつり上げが著しい。買収合戦に深入りしなかったのは正解だ。だが、数少ない東南アジア市場への布石を失ったのは痛手。手にした利益を、今後いかに有効に使うかが問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)