メールや文書、プレゼン……自分の伝えたいことがうまく伝わらない、と思うことはないだろうか。そんな人にぜひ読んでほしいのが、2023年2月15日発売になった『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(坂本和加著)だ。著者の坂本氏は「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」など数々の名コピー、ネーミングを生み出している。本書では、坂本氏が20年以上のキャリアで身につけた、「伝える」ための思考法、技術を余すところなく紹介。今回は本書の発売を記念して特別に一部内容を再編集、抜粋して紹介する。
時代の流れは「自分だけ」ではなく「みんな」
日本がコロナのニュースに戦々恐々とし始めた2020年春先は、まさに各企業のスタンスを見たような時期でした。
当時私が通っていたスポーツジムは、マスクやアルコールが店頭で売り切れていたようなころ、かなり早い段階でアルコール消毒や検温の設備を整えていました。
その後、休館もありましたが、「やっぱりここと付き合っていて正解だ」と思えるような素晴らしい対応がいくつもありました。
そのジムの打ち出していたメッセージが「スポーツは楽しい」でした。
コロナ禍での真摯な対応や姿勢が、スポーツを安心して楽しむことにつながっているのだと感じました。
初期のコロナ報道で退会者も多かったようですが、もしもジム側が「自分たちさえよければいい」という視点しか持っていなかったら、やめさせないための施策ばかりに躍起になっていたことでしょう。
そうではなく、そのジムはスポーツを楽しむ“場”を提供することに責任を持って徹していたように思いました。
もしも「スポーツは楽しい」というひとことを掲げていなかったら、私はそういった目線でそのジムのコロナ対策を見ることもなかったと思います。
好感を持つ、ファンになる、というのはこういうことです。
「自分さえよければ」は古い
企業であっても個人であっても、自分さえよければ、はもう古い考え方です。
コロナ禍でステイホームをしたときに、私たちが得たのは「自分さえよければ……ではなく、家にいることできっと誰かのためになっていると信じること」だったのではないでしょうか。
ポジティブに考えていけば、「主語が自分だけでなく、みんな」という発想を持てた。
生活にその気づきを加えられたことだけでも、得たものは大きいと思います。
売り手だけではなく、対価を支払った買い手を幸せにすることはもちろんのこと、その周りの人まで笑顔にするような「世間よし」までどれだけ想像し、思いやっていけるか。
これがうまくいくビジネスの本質だと、私は思います。
さらに「地球環境への意識」「持続可能な社会」などの長い目で見た“時間軸”が加われば、ビジネスは盤石になっていく。
少なくともファンをつくる、応援される企業や団体になれるはずです。
(*本稿は『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』より一部抜粋、再編集したものです)
合同会社コトリ社代表
文案家(コピーライター)/クリエイティブディレクター
大学を卒業後、就職氷河期に貿易商社へ入社。幼少期から「書くことを仕事にしたい」という漠然とした思いがあり、1998年にコピーライターに転職。数社の広告制作会社を経て、2003年に一倉広告制作所に就職。2016年に独立し、現在は合同会社コトリ社代表。
主な仕事に、「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」「健康にアイデアを」「こくご、さんすう、りか、せかい。」などがある。受賞歴に毎日広告デザイン賞最高賞ほか多数。著書に『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(ダイヤモンド社)、『あしたは80パーセント晴れでしょう』(リトルモア)ほか。東京コピーライターズクラブ会員。日本ネーミング協会会員。