健康法を知っているだけでは健康にはなれません。本当に正しいとされている健康法を、きちんと行動に移し、毎日無理なく続けるためには技術が必要です。本連載の「健康になる技術」とは、健康でいるために必要なことを実践するスキルです。簡単に言うと、健康になるために「What(何)」を「How(どのように)」行ったら良いのか、自分の環境や特性(弱点・強み)に合わせて実践する技術のこと。本連載では、話題の著書健康になる技術 大全の著者、林英恵が「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。何をしたら良いのかはもちろんのこと、健康のための習慣づくりに欠かせない考え方や、悪習慣を断ち切るためのコツ、健康習慣をスムーズに身につけるための感情との付き合い方などを、行動科学やヘルスコミュニケーションのエビデンスに基づいて、丁寧にご紹介していきます。今回は、どうして「やめろと言われると、やってみたくなる。やれと言われると、やりたくなくなる」のか?についてです。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)

【健康になろうとすると出てくる厄介な考え方】どうして「やめろと言われると、やってみたくなる」のか?Photo: Adobe Stock

自分の考え方と行動の癖を知る

 前回は、健康になろうとすると出てくる厄介な考え方として「認知不協和」と「バンドワゴン効果」をご紹介しました。今回は、健康になろうとすると出てくる厄介な考え方をさらに3つご紹介します。

健康になろうとすると出てくる厄介な考え方の癖③「ちょっとくらいやったところで、何も変わらない」―ピーナッツ効果(Peanuts Effect・ピーナッツ エフェクト)

 健康になろうと思っている人を邪魔する大きな理由の1つ。それは、目の前の行動があまりにも小さな一歩だと感じるために、「病気になるかもしれない」という未来の大きな損失と自分の行動を結びつけられず、結果として不健康な行動をとり続けてしまうことです。

 例えば、たばこを吸い続けることが体に悪いとわかっていても、目の前のたった一本を吸うことが、がんを引き起こすことはないと考えます(*1)。

 結果、「たった一本」を何度も繰り返し、病気になってしまうのです。これは、たばこだけではなく、お酒、食事など、多くのことに当てはまります。逆も然りです。今日たった15分歩いたって、病気予防にはつながらないから、歩かなくても結果は変わらないと考えるのです。

 健康に良いことも悪いことも、目の前のものを(ピーナッツのように)小さな効果として軽く見てしまうのがピーナッツ効果

 本来であれば「塵も積もれば山となる」健康習慣ですが、積み重ねの結果が見えにくいこと、また、結果が出るまでに時間がかかることで、その効果を実感できないのです。結果、「たったこれくらいで」という開き直りの気持ちが起こってしまうのです。

健康になろうとすると出てくる厄介な考え方の癖④「やめろと言われると、やってみたくなる。やれと言われると、やりたくなくなる」―(Reactance・リアクタンス)

「天邪鬼」という言葉がある通り、人は、強制されたり押しつけられたりすると、逆のことをしたくなる生きものです(*2,3)。

 勉強をしようと思っていても、「勉強しなさい」と言われたとたん、嫌になったことはないでしょうか? これは、健康の習慣にもあてはまります。この傾向の強い人に対して、「~はダメ」や「~しなさい」というのは禁句。自分で選ぶ権利がない、自由が奪われたと感じると、その行動をやめたり、逆の(良くない)行動をとる傾向が明らかになっています(*4)。

 アメリカでは、1999年から2004年まで、1200億円かけて若者の薬物防止キャンペーンを行いました。その結果、逆に薬物に興味を持つ若者を増やしてしまいました

 失敗の理由の1つとして、リアクタンス、つまり、「ダメ」というメッセージを伝えたことで、若者によけい興味を持たせたのではないかと解説されています(*5)。

 また、身近なところでも、健康なものを無理に食べさせられた場合は、自分の意思で選んだ場合に比べて、食べた後に、かえって空腹度が増す傾向が強いという研究結果があります(*6)。健康の専門家は、体に良いことは行動を変えうる十分な理由になると考え、ともすれば健康を押しつけてしまいがちです。しかし、それは逆効果になりうることを頭に入れておきましょう。

 ワクチン接種においても、リアクタンス効果が働く可能性があります。例えば、政府への信頼度とコロナのワクチン接種はアメリカや日本、その他の国々でも関連が見られます(*7,8)。

 政府への信頼が低いと、ワクチン接種の意向は低い傾向があります(*9-11)。そのような時に、自分が信頼していない政府からワクチンを打つように言われても、リアクタンス効果(よけい嫌になる反応)を増やすだけかもしれません。

 実際、アメリカでは、スキャンダルの多かったトランプ政権にワクチン接種を勧められるよりも、専門機関であるCDC(アメリカ疾病予防管理センター)やWHO(世界保健機関)から勧められた方が、ワクチン接種により前向きになる人が多いという結果が出ています(*12)。

 行動科学の観点から考えるのであれば、ワクチン接種においては、誰(組織を含む)がワクチン接種について啓発すると最も効果的なのかを、考える必要があるでしょう。人には、元来強制されたり、無理やり何かを勧められると、嫌になる傾向があることを覚えておきましょう。