「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。
「朝ご飯抜き」は、体にいいのか?
前回までに糖質制限の必要性を見直してきましたが、その観点から、改めて現在、言われている健康常識についても説明していきます。
糖質制限ダイエットをやっていなくとも、なんとなく健康の秘訣としてよく聞くのが、「朝ご飯抜き」の食習慣ではないでしょうか。
朝を抜いたほうが、とりすぎになっている糖質を抑え、ダイエットにいいし、健康にもプラスになる。そう言われてはいても、現実を見れば、健康状態を悪くしている人が少なくありません。
やはり、「1日3食が基本」なのです。
会社や学校に行く前に、朝食は必ず食べることをおすすめします。朝は体にスイッチを入れる時間です。むしろ、糖質が必要な時間帯なのです。
そもそも朝食を抜くメリットは、1日全体でとるカロリーの総量を抑えることが理由だと思います。
ところが、朝ご飯抜きで午前中に仕事をする人は、結果的に、お腹が空きすぎてしまい、昼ご飯の量を、かえってとりすぎてしまう可能性があるのです。
急激に大量のエネルギーを摂取するのは、体のバランスにとってよくありません。
お昼ご飯を食べたあとで、眠くなっていませんか?
「そんなことわかっている。自分はちゃんとコントロールしているから、昼だって食べすぎたりしていないよ」と考えている方も多いでしょう。
体重は増えていないし、ダイエットもできているから、今さら朝ご飯を食べる習慣に戻すのは怖い、と。そんな方に認識してほしいのは、「お昼ご飯を食べたあとで、眠くなっていませんか?」ということです。
「お昼ご飯を食べたら眠くなるのは当たり前でしょう」と考える人もいるでしょうが、本来、お昼ご飯を食べるのは、午後の活動に必要なエネルギーを確保するためです。食べすぎでなければ、本来は元気になってきます。
眠くなるという現象は、体が「午後の活動」を完全にボイコットして、お休みするように催促していることを意味します。なぜかといえば、食べたご飯の消化などにエネルギーを集中させたいからです。
1日2食のほうが、日本人には合っている?
そもそも「1日2食」を推奨する人は、「江戸時代に日本人は、1日2食だった」ということを言います。もともと1日2食は、鎌倉武士の習慣でした。
しかし2回といっても、決して少食ではありません。朝に玄米五合を蒸して、一汁一菜を添える1日2食が一般的だったのです*22。
玄米は、『八訂 食品成分表2022』(女子栄養大学出版部)によれば、100gで346キロカロリー、1合は150gになるので、約519キロカロリー、5合なら2595キロカロリーになります。現代の成人の1日の摂取カロリーが2200~2400キロカロリーなので、実は、十分なカロリーを摂取していたのです。1日2食だから摂取カロリーが少ないわけではないのです。
現代の私たちが1日に食べるのは、せいぜい白米1合ぐらいでしょうか。
鎌倉武士は、私たちと比べるとずいぶんお米を食べていますが、玄米なので食物繊維やビタミンB群は豊富です。胃腸は丈夫で、屈強で鍛え上げています。筋肉がしっかりしているので、糖質をたくさん摂取しても、グリコーゲンを筋肉にしっかり溜め込むことができます。それでも、合戦など重労働の状態になれば、3食食べていたようです。
では、どうして1日2食から3食になったのか。理由は簡単です。
社会が豊かになり、夜遅くまで活動できるようになったからです。貴族から庶民にかけて、江戸時代の途中から3食になったのです。
江戸時代の平均寿命は30~40代という報告があります*23。
これは、貧しさから、子どもの頃に死ぬ人がとても多かったからです。十分な栄養がとれず、感染症に対する抵抗力がないまま、今では考えられないくらい、あっけなく人が死んでいったのです。
一方で公家や武家、商家など、裕福な家庭には、今と変わらぬ長寿の人たちも多いです。現代と比べて粗食でも、食事から十分な栄養をとっていたのです。
私たちの社会は、江戸時代と違って、全体的に栄養状態と衛生状態が改善し、明らかに平均寿命は長くなりました。
もしかすると、1日2食時代のほうが、「日本人の健康状態がよかった」のかもしれませんが、残念ながら、ある種の幻想のように感じます。