新型コロナウィルスの流行、ウクライナへの軍事侵攻、ChatGPTなどの新しいAI、干ばつや地震などの自然災害……日々伝えられる暗く、目まぐるしいニュースに「これから10年後、自分の人生はどうなるのか」と漠然とした不安を覚える人は多いはず。しかし、そうした不安について考える暇もなく、未来が日常にどんどん押し寄せてくるのが今の私たちを取り巻く時代だ。
『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』著者の冬木糸一さんは、この状況を「現実はSF化した」と表現し、すべての人にSFが必要だと述べている。
なぜ今、私たちはSFを読むべきなのか。そして、どの作品から読んだらいいのか。今回は、冬木さんにテーマ別ベスト3冊を教えてもらった。
『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』の著者の冬木糸一です。エンジニアとして働きながら、ブログ「基本読書」などにSFやらノンフィクションについての記事を、15年くらい書き続けています。
今回は、「10年後、自分に仕事はあるのか」と不安な人向けに3冊を選書してもらえないかと依頼を受けたので、コメントをしてみました。実際、僕自身もそうですが、対話型のAIサービスのChat(チャット)GPTのあまりの高性能ぶりなどを見ると、10年後、自分に仕事は残っているのかと不安がよぎる日もあるでしょう。そうした時、たとえSFが直接的な解決策にならなかったとしても、役に立つ時もあるはずです。『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』では、下記の3作品についても「どんな作品か」「どこがスゴいのか」の2つの視点からさらに詳しく紹介しています。
人間よりはるかに優秀なAIが現れたら?
長谷敏司『BEATLESS』
最初に取り上げるべきなのはやはり真正面から近未来のAIと人間の関係性を扱った長谷敏司『BEATLESS』だろう。人間よりもはるかに高性能なAIが出現した時、人間に残された役割とは何なのか? 仕事はなくなったとしても、人間が人間としてやるべきことは必ずや残されているはずだ。それについて考えをはせてみるのも悪くない。
森博嗣とフィリップ・K・ディックのAIものを読み比べよう
森博嗣〈Wシリーズ〉
続いて取り上げたいのは、『すべてはFになる』などで知られる森博嗣による長大な〈Wシリーズ〉だ。この近未来の世界では人々の寿命は限りなく延長され、AIが発展し、人工細胞で創られた存在(ウォーカロン)もいるので、人間の仕事の大半は代替されている。そんな世界でも一部発想の飛躍が必要な研究の仕事は人間の領域として残されていて、主人公であるハギリは人間とウォーカロンの区別をするテストについて研究している。それはつまり、人間を人間たらしめている特別なものは何なのか? を問うているわけであって、これから先、われわれが「人間ならではの価値」を追求していかねばならぬ時代においては重要な一冊&テーマといえる。
ちなみに、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も同テーマを扱っているので、あわせておすすめしたい。
仮想世界では高齢者のハンデがなくなる
芝村裕吏『セルフ・クラフト・ワールド』
10年後日本では少子高齢化が進み、高齢者が今以上に多数派を占めている。そうなってくると重要になってくるのが仮想世界だ。現実では体が痛く、動くのも億劫になっていく。そうした時、老人が自由に動けるのは現実よりも仮想世界だ、というのは十分に予想できる未来であり、芝村裕吏『セルフ・クラフト・ワールド』はそんな「高齢化によって高齢者らが仮想世界に集うようになった」未来が描かれている。
この世界でも無論AIは人間の仕事を奪っているが、少子化によって生産年齢人口が減っていることもあってそこまで失業率に大きな変化はないとされている。本作が具体的に仕事の不安を紛らわせてくれるわけではないが、未来に自分がどんな世界を生きているのか、想像するにはうってつけの一冊だ。場合によっては、仮想世界で仕事をしていることだって考えられる。
※この記事は『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』からのスピンアウトです。