住民投票はなし
避難訓練もなし

 石垣島に駐屯地が設置されたことは、筆者も、中国の動きから見て「やむを得ないこと」と捉えるしかないと思っている。ただ、問題も見え隠れする。

 一つは、住民投票の機会が奪われたことだ。石垣市議会議員の花谷史郎氏は言う。

「石垣市の自治基本条例では、有権者の4分の1の署名で住民投票請求が可能だったのですが、一昨年、条例から住民投票に関する項目が削除されてしまいました。中山義隆市長は『国全体に関わる問題を住民投票で決めるというのはそぐわない』と、民意を問う考えはないことを強調しています。当初は反撃能力ミサイルの話はなかったわけです。事情が変わったにもかかわらず市民は声を上げられません」

花谷史郎石垣市議国や市からの説明不足に懸念を示す花谷史郎石垣市議

 もう一つは、八重山日報の仲新城氏が指摘したように、住民の避難訓練が思うように進んでいない点だ。

 沖縄県では、国民保護法に基づく住民避難の検討作業に着手し、3月17日に実施した初の図上訓練では、先島諸島からの住民避難について、航空機と船で1日最大2万人の輸送が可能と試算した。

 対象となるのは、先島諸島の宮古地域(宮古島市、多良間村)と八重山地域(石垣市、竹富町、与那国町)の住民約11万人と観光客約1万人だ。その避難先は、2006年の段階で「武力攻撃災害等時相互応援協定」を結んでいる九州となっている。

 しかし、単純計算でこれだけの人数を避難させるには6日もかかってしまう。民間の航空会社やフェリー会社とは話し合い済みだが、悪天候のケース、あるいは新石垣空港や宮古島の下地島空港などが被弾した場合、計画には狂いが生じる。

フェリー島嶼部の自治体はフェリーぐらいしか避難手段がない

 中国がショートシャープウォー(短期激烈決戦)で挑んできた場合、島外に避難する余裕などなく、かといって島内避難の準備も進んでいない。

 石垣島では、これまでの訓練は防災避難訓練の域を出ていない。与那国島では2022年11月30日、ようやく訓練が実施されたものの、避難先は何の防衛効果もない公民館などにとどまった。

 また、宮古島では、弾道ミサイル飛来を想定した住民避難訓練を計画したものの、「公民館等への避難では意味がない」と、これを取りやめている。台湾にはすでに10万カ所もシェルターが設置されているというのに、これらの島々にはまったくない。

 住民避難の問題は、各自治体の問題というよりも政府と県が、大地震や津波対策と同様、準備を急ぐべき課題である。