なお、咀嚼能力の測定には、研究用に開発した硬い「グミゼリー」を利用。これを30回、咀嚼してもらった後、35度、15ミリリットルの水に入れ、溶けたグルコース濃度の表面積から評価する方法をおこなっています。
かむ力が弱いとメタボになりやすいメカニズムとして、同グループは、緑黄色野菜や果物などの摂取量が低下し、あまりかまなくても食べられる米や菓子類などが増えることを指摘しています。
実はこのことは、多くの歯科医師が日々の診療で実感していることだと思います。
歯周病やむし歯で歯が抜けていたり、グラグラしている歯があるとしっかりかめないので、かむ力が必要な野菜類を敬遠し、ご飯やパン、麺類などの炭水化物を中心としたやわらかい食材に手が伸びてしまいます。
例えば患者さんに一日のメニューを聞くと朝はパン、昼はうどんやラーメン、カレーなど。夜も野菜は少なめです。一方、デザートはしっかり取っていて、患者さんに聞くとケーキやプリン、ゼリーなど、やわらかく甘いものを好んで食べている人が多いです。
なお、早食いをすると適量でも満腹感が得られにくく、必要以上に食べ過ぎてしまうことがよく指摘されていますが、よくかめないと早食いになってしまう。これもまた、メタボの引き金になります。
一方で、明らかに咀嚼に問題があるにもかかわらず、「かめていないこと」に気づいていない患者さんも多いのです。
歯周病が進んでいる患者さんの場合、グラグラしている歯が複数あることが多いですが、ご本人に聞くと、
「食べるのにそれほど、困っていませんよ」
と言います。
しかし、歯を見る限り、硬いものをかんでいる形跡がありません。また、炭水化物系の食材は、野菜などと違って歯に付着しやすく、そこに細菌が集まってプラーク(歯垢)を成長させます。このため、歯には乳白色のプラークが、べったりと付着していることが多いのです。
おそらく、かんでいるといっても、数回程度の咀嚼で、やわらかい食材をほとんどに丸のみに近い状態で食べているのではないかと思います。同じような食べ方を、連日しているうちに、「こんなものだ」と慣れてしまっているのでしょう。