「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

【91歳の医師が教える】「カレーは飲み物」と豪語するような人に“将来待ち受ける危機”Photo: Adobe Stock

そしゃく回数は
弥生時代の6分の1以下

【前回】からの続き 嚙めば嚙むほど、脳は喜んでくれますが、現代人のそしゃく回数は大幅に減っています

各時代に食べられていた食事を復元して、それを食べてそしゃく回数をカウントしたところ、弥生時代には1食に4000回近かったそしゃく回数が、昭和初期(戦前)には1420回となり、現代では弥生時代の6分の1以下の1食620回にまで減っているそうです(出典:『よく嚙んで食べる 忘れられた究極の健康法』[齋藤滋著、生活人新書])。

カレーライスは飲み物?

そしゃく回数が減っているのは、そしゃくをしなくても食べられる、やわらかい食品が増えている影響が大きいです。

個人差はありますが、ごはん(茶碗1杯)やツナサンド(1個)を食べ切るのに41回、同じくクリームパンは36回、ざるそばに至っては1枚15回程度しか嚙まないそうなのです(日本チューインガム協会のホームページより)。

ハンバーガーなどのファストフード、カップ麺などの加工食品は、やわらかくてほとんど嚙まなくてものみ込めるので、そしゃく回数が激減します。むしろ、それを手軽に感じる若い世代のなかには、「カレーライスは飲み物です」とか「麻婆豆腐は飲み物です」といった表現をする人もいるくらいです。

そしゃくを“思い浮かべる”
だけでも効果アリ

ひと口30回以上嚙もうと思っても、多くのファストフードや加工食品は、そこまで嚙む前に口のなかで溶けてしまうでしょう。これから食べ物を選ぶ際は、できるだけ嚙み応えのあるものを増やすように心がけてみましょう。

意外にも、前述の研究では、そしゃくするときに筋肉がどう動くかは、脳の血流量とは直接関係していませんでした。そしゃくを脳でイメージするだけでも、脳の血流量は増えていたそうなのです。

とはいえ、慣れないイメージトレーニングに励むよりも、嚙み応えのある食べ物を選び、意識してそしゃくするほうが実践しやすいでしょう。

噛む力は
アナタの体重に比例する

やわらかい食品に慣れている多くの人は、そしゃく回数が減った結果、あごの筋肉が衰えて弱くなっています。あごの筋肉が弱くなると、そしゃくするうちに疲れてしまい、途中でのみ込んでしまうという悪循環が生じやすくなります。

逆に嚙み応えのある食品を食べていると、あごの筋肉は鍛えられます。嚙む力は、体重に比例するといわれています。体重50kgなら50kg、60kgなら60kgの力で嚙んでいるということです。

これだけ大きな力が加わるのですから、嚙むほどにあごの筋肉が鍛えられて、そしゃく力は高まるでしょう。そのぶん、そしゃくできる回数を増やせるので、脳の血流アップも期待できます。

避けるべき「オーラフレイル」とは?

嚙む力がアップすると、食べられる食品の量と種類も広がり、高齢者のエネルギー不足や栄養不足を予防する効果も期待できます。

嚙む力が落ちて必要なエネルギーや栄養がとれなくなったために、全身の機能が低下して社会活動に支障が出る「オーラルフレイル」(口の衰え)という言葉も登場しています(オーラルは「口腔」、フレイルは「虚弱」という意味です)。

オーラルフレイルを防ぐためにも、嚙み応えのある食べ物で、積極的にそしゃく力を高めるようにしましょう。

※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。本書には、脳が若返るメソッドがたくさん掲載されています。ぜひチェックしてみてください!