クレディ・スイスをはじめ多くの金融機関がこういった社債を発行しています。資金調達の一種ですし、リーマンショックのような危機を再発させないために、こういった形で自己資本を増強する手段が取られるようになり、マーケットの安定にも寄与しています。よってこれ自体悪いことではありません。
実際、2021年の高速利上げ前の世界的な低金利環境では、相対的にこのAT1債の金利が高かったので、AT1債は高金利の外債として多くの富裕層が購入しています。
クレディ・スイスのAT1債も、5%前後のクーポンを取れる社債として、多少のリスクがあっても高金利を取りたいという方に人気でした(5%で発行しても債券価格が変動するので、実際のクーポンとキャピタルゲインの合計利回りは10%前後になることもありました)。
元本削減条項により
AT1債が無価値に
通常、発行体が破綻すると「預金→債券→株式」という弁済順位になります。よって、クレディ・スイスの株がゼロになっていないため(執筆時、1スイスフラン前後)、いくら弁済順位が低いとはいえ債券の一種であるこのAT1債が無価値になるというのはふに落ちません。しかし、一部のクレディ・スイスをはじめ発行体のAT1債の条件に「元本削減条項」が入っており、今回のUBSによる救済買収により投資元本がゼロになるということのようです。
前述の通り、こういった債券が全部悪というわけではありません。米銀は優先株を発行するケースが多いので、この手の債券の主流は欧州銀です。特にマーケットでは富裕層には英HSBCやウエストパックなどの豪銀、そして日本の生命保険会社や事業会社でもソフトバンクや楽天が、永久劣後債やCoCo債という形で低格付けですが高金利の債券を発行しています。
どの債券もUSドルで最低投資単位が10万~20万ドル(日本円で最低千数百万円)なのでなじみは薄いですし、仕組債と比べて証券会社の利益はやや薄いため、主流とはいえませんが、富裕層にはそれなりに(特に仕組債の問題後は)売れている商品です。