「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と断言し、その悩みに明確な答えを与えてくれる「アドラー心理学」。日本では無名に近かったこの心理学を分かりやすく解説し、世界累計1000万部超のベストセラーとなっているのが『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の“勇気シリーズ”です。
この連載では、『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、アドラー心理学の教えに基づいて、皆さんから寄せられたさまざまな悩みにお答えします。
今回は、子どもとのコミュニケーションの仕方に悩む親御さんからのご相談。岸見氏と古賀氏がアドラー心理学流に、「子育て」をどう考えればよいかズバリ回答します。(構成/水沢環)

『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者があなたの悩みに答えますイラスト:羽賀翔一

今回のご相談

「叱ってはいけない、ほめてもいけない」というアドラーの教えを子育てに活かそうとしてきました。しかし義父母が真逆の接し方(ほめる、褒美を渡す)をするため、子どもが私に不満を抱くようになりました。他者からほめられたと報告されたときには、どう声掛けをしたらいいでしょうか? また、心から「すごい」と思ったことには、理由を添えて伝えてもいいでしょうか?(50代・子育て中の方)

「アドラー心理学流」回答

岸見一郎 多くの人が「ほめる」のは相手を喜ばせる行為だと思っていますが、アドラー心理学ではほめることも叱ることと同様に否定しています。なぜなら、ほめる行為には「能力のある人が能力がない人へ下す評価」という側面が含まれているからです。「ほめる」の背後にあるのは、相手を操作したいという思いなのです。

 このことを踏まえて、ご質問の内容を考えてみましょう。まず、「私がこの子どもとどう関わるか」だけが大事なので、義父母の教育方針については、脇に置いておきましょう。そして一度、子どもさんと「ほめられたときにどう感じるのか」「本当にうれしいと思っているのか」を話し合ってほしいと思います。

 私の息子が4歳のとき、プラレールで遊んでいました。複雑なレールをつくっているのを見て、妻が「すごい!」と言ったのです。ほめたわけではなく見事な出来栄えに驚いたのでしょう。でも息子は憮然とした表情で「大人から見れば難しく思うのかもしれないけど、子どもにとっては少しも難しくない」と言って作業を中断してしまいました。

 そういう子どももいるのです。「すごい」一つをとっても、受け止め方は子どもによって千差万別なわけですね。ですから、まずは子どもさんと話し合ってみてほしい。だれかからほめられたと報告されたときに、「そのときどう感じたの?」と聞いてみるといいかもしれません。

 それから、ほめない理由についても説明してください。「ほめられたい気持ちの根幹には、ほめられない他の兄弟・姉妹よりも自分は上だけど、自分より上の立場にある親に認めてほしい、と思っている、つまりあなたは親の家来や子分にしてほしいという思っているのではないか、でも、私はあなたを家来にも子分にもしたくない。だからほめないのだ」と。

 ここで大事なのが、ほめない代わりに「ありがとう」「助かった」という言葉をたくさんかけることです。「ありがとう」という言葉を受けると、貢献感が得られます。貢献感が持てると、自分には価値があると思えるようになる。人は自分に価値があると思えたときに、人生の課題に立ち向かっていく勇気を持てるようになるのです。

 こんなことを言っても子どもには分からないだろうなどど思わず、きちんと説明してください。子どもは、自分が対等に扱われているかどうかは必ず分かるものです。しっかり説明すれば、いずれは「ほめられるのは対等に見られていないということだ」と気づくでしょう。

 話し合いをていねいに重ねていけば、どういう場面でどういう言葉を使えばいいかが少しずつ分かってくると思います。

古賀史健 お話をうかがっていて、少し不安なのは「叱ってはいけない、ほめてもいけない」って言葉で自分を縛りすぎていないかということです。ついほめたくなったときに毎回「あ、この言葉は言っちゃダメだ!」と感情を飲み込んでいたら、子どもとの接し方が不自然になりますよね。

 リアクションの言葉って、瞬間的な本音だし、相手にもしっかり伝わります。それをためらい続けると、本当の素直な心の交流ができなくなっちゃうんじゃないでしょうか。子どもって大人がウソをついていたり、なにか型にはまったことを言っているのはすぐに見抜きます。だから子どもと接する上では、ウソをついていると思われないことが一番大事な気がするんですよね。

 もちろん「偉いね」「よくできたね」っていう上からの言葉は良くないですが、「わぁすごい!」とか「めちゃくちゃ面白いね!」みたいな同じ立場で発する言葉はどんどんかけてもいい気がします。素直なリアクションを心がけたほうが、お子さんとの繋がりも強くなっていくんじゃないかなと思いました。

岸見一郎 古賀さんがおっしゃるとおり、究極的なゴールは仲良く生きていくことなので、その意味ではあまり技巧的になりすぎないことは大切だと思います。

 ですが、最初のうちはやや縛ることも必要かもしれません。というのも、まずは、いかになにも考えずに子どもに言葉を発してきたかに気づいてほしいからです。最初から「これくらい当たり前じゃないか」と自分に歯止めをかけなければなにも変わりません。ですから少しは「あ、言っちゃダメだ!」と自分を縛る意識も必要だと思います。もちろん最初はぎこちない感じになると思いますが、少しずつ慣れて自然になっていけばいいのではないでしょうか。

(次回もお楽しみに)