陰謀論を主張する人たちに欠けている大事な視点
「結論から先に言ってしまうと、典型的なフェイク情報です。統計データについて誤った解釈をして、都合の良い結果を主張していると言わざるを得ません」
そう断言するのは、国立がん研究センターがん対策研究所事業統括の若尾文彦医師である。
ご存じのように、巷には「◯◯を食べればがんが治る」など出所不明の怪しい情報があふれている。そこで、国立がん研究センターとして、がん患者やその家族だけではなく、社会が誤った情報に惑わさないよう、信頼できるエビデンスに基づいた情報の提供にも務めている。そんな「がん情報」の専門家である若尾医師によれば、先ほどのように、右肩下がりの喫煙率と、右肩上がりの肺がん死亡者数の統計を重ねて、「X」のようになっていることから、たばことがんには何の因果関係もないと主張している人たちには、ある大事な視点が欠けているという。
「それは、がんというのは“高齢者の病気”という視点です。年齢別の罹患率を見ると年齢が上がっていくほどがんに罹患する人が増えています。特に男性は50代以降から罹患率が上がっていきます。日本は急速に高齢化が進んでいて、人口ピラミッドでも最も人口が多い世代もどんどん高齢化しています。つまり、がんの罹患者数が右肩上りで増え続けているのは、日本で、がんにかかりやすい高齢者の数が右肩上がりで増えているからなのです」(若尾医師)
確かに日本はかつてに比べて、高齢者の数が増えてきている。だから当然、昔よりも、肺がんをはじめとしてがんに罹患する人の数も増えており、肺がんで亡くなる人も増えている。
その当たり前の現象に対して、喫煙率の統計を重ねて、「ほら、見ろ! たばこを吸わなくてなっても、こんなに肺がんで死ぬ人が多いじゃないか!」というのは、かなり苦しいロジックだ。