ボイストレーナーが教える
“いい声”の定義とは

 オンラインでのやりとりが増えた昨今、「オンラインでは“いい声”で話すべし」などという意見も聞くようになったが、そもそも“いい声”とは何なのだろうか。

「大前提として、腹式呼吸ができていることと、滑舌が明瞭なこと、この二点は必須の条件です。この基礎を踏まえた上で、相手が心地よく聞けて、場所やシチュエーションに合っている声が、“いい声”であると私は定義しています」

 男性だと、「低くて落ち着いた“いい声”が女性にモテる」とよく言われるが、これは「低くて落ち着いた声」が、女性という“相手”と、デートという“シチュエーション”に合っているため、“いい声”と言われるのだ。

「私は仕事柄さまざまな職業の人にお会いしますが、成績トップの営業マンは明るくて抑揚のついた話し方をされますし、人の悩みに寄り添うカウンセラーはゆっくりと包み込むような癒やし系の声で話されます。私自身も、子ども向けのリトミック教室と、企業の研修では、まるで違う声と話し方をしていますよ。相手が心地よく聞けて、場に合った声は、相手の聴覚、そして気持ちにしっかり届く声になるのです」

 落ち着いた低音ボイスの男性からは包容力が、ハキハキと快活な声の営業マンからは話す内容に説得力が、やさしい声のカウンセラーからは安心が感じられるだろう。どれもが、話す人の属性、相手の状態、状況に合っている、聞いていて心地よく感じる“いい声”だ。

「やさしい声でゆっくりと話すカウンセラーだって、相談しに来る人の気分によっては、気持ちを引っ張り上げるようなハキハキとした声を出すこともあるでしょう。上司への報告は簡潔に淡々と話すかもしれませんし、家に帰って子どもがふざけていたらピリッとした声で叱るかもしれません。このように、同じ人間でも、相手とシチュエーションによって求められる“いい声”は変わるのです」