満足度を最大化するのではなく、後悔を最小化する

 この問いに対してシュワルツは、マキシマイザーではなく「サティスファイサー(満足化人間)」になりなさいという。サティスファイサーは「まずまずいいものでよしとして、どこかにもっといいものがあるかもしれない、とは考えない」ひとのことだ。自分なりの基準をもち、「サイズ、品質、値段の基準をみたすセーターが一軒目の店でみつかったら、それを買っておしまいだ。角を曲がった先の店に、もっといいものがあるかもしれない、もっと安く買えるかもしれない、とは考えない」という。

 このサティスファイサー戦略なら、「選択肢が多すぎる」現代にうまく対処できそうに思える。だが残念なことに、これも万能とはいえない。

 結婚は人生でもっとも重大な選択のひとつだ。そして現在では、婚活サイトに魅力的なパートナー候補の写真や経歴、年収などが大量に掲載されている。そのとき、「最低限の基準は満たしているから、この相手で満足しよう」と思えるだろうか。

 現代人の幸福度は選択肢が多すぎることで下がっているが、だからといって選択肢を強制的に減らしたり、自由が制限された前近代の社会に戻したりすることはできない。こうしてわたしたちの人生は、選択と後悔の繰り返しになった。

 とはいえ、「満足度を最大化するのではなく、後悔を最小化する」というこのサティスファイサー戦略は、合理的に人生の土台を設計するときにきわめて重要な示唆を与えてくれる。

橘玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。