「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

わたしたちがいつも時間に追われているように感じるのは、脳が全力で「このままでは死んでしまう!」という警報を鳴らすからイラスト:Nao / PIXTA(ピクスタ)

「時間がない」のは「お金がない」のと同じ

「お金」という資源制約よりもさらに重要なのは、「時間」という資源の制約だ。理屈のうえでは、経済的な制約は資源を増やす(お金持ちになる)ことで解決できるが、時間の制約は物理的・生物学的な限界なので、そもそも解決方法がない。

 脳はどうやら、「お金がない」ことと「時間がない」ことを区別していないらしい。これらはいずれも、「食べ物がない」ときと同じ脳の部位を活性化させる。

 飽食の時代では、わたしたちはもはや食料の欠乏を心配することはなくなり、先進国の深刻な社会問題は肥満(食べすぎ)になった。とはいえ、これはつい最近のことで、ヒト(ホモ・サピエンス)だけでなくそれ以前の人類の数百万年の歴史を通して、あるいは生き物としての40億年の歴史のなかで、飢餓はもっとも重大なリスクだった。

 脳は食べ物が欠乏する世界で進化してきたため、食べ物があり余る世界でも、すこしでも空腹を感じると「このままでは死んでしまう!」と全力で警報を鳴らす。これがダイエットが失敗する理由で、「やせたい」という意志はほとんどの場合、無意識の「死の恐怖」に打ち勝つことができない。

 遺伝子の変化はきわめてゆっくりで、環境が変わったからといって、電化製品のように次々と新しい機能を脳に付け足すことはできない。大きな変化にも、これまで使ってきた「ありもの」で対応するしかないのだ。