宿泊研修を拒否する新入社員を、会社は解雇できるのか?

 4月3日の午前中、A部長はD社労士の事務所に出向き、Bの件について詳細を話し終えると「社長は宿泊研修を拒否するB君をクビにしたいようですが、それは可能ですか?」と尋ねた。

 D社労士は次のように説明した。

<社員が研修を拒否した場合の扱いについて>
(1)業務に関係する内容の研修を行う場合、業務命令として研修に参加させることは可能で、その場合労働時間として扱われる
(2)社員が(1)の研修参加を拒否した場合、業務命令違反になる。ただし、拒否の理由によっては違反にならないケースもある。例えば
・体調不良などにより、研修の参加に対してドクターストップがかかっている場合
・研修の内容が社員へのパワーハラスメントを含む内容である場合
 などが該当する。
(3)研修参加の拒否が業務命令違反の扱いになった場合、就業規則の定めにより懲戒処分の対象にすることが可能である。ただし、下記に該当する場合などは懲戒権の濫用として、処分無効になる可能性が高い。
・例えば研修を1回欠席しただけでクビ(懲戒解雇)にするなど、行為の内容と懲戒処分の内容とのバランスが取れていない
・懲戒処分にする前に、行為に対して複数回の注意及び十分な指導などを行っていない
・処分に際して該当社員に弁明の機会を与えていない

「この説明によれば、B君をクビにすることはできませんね。ちなみにB君は試用期間中で、この場合本採用後の社員よりクビにしやすいと聞きましたが、どうでしょうか?」

<試用期間中の労働契約について>
(1) 試用期間中は、当該社員の本採用可否について、自社の基準と照らし合わせて判断できる期間であり、不適格と判断した場合は締結している労働契約を解除できる(『解約権留保付労働契約』という)
(2)試用期間中に社員を解雇する場合、解雇理由が(3)に該当するときは、試用期間開始後14日以内であれば即日解雇が可能である(労働基準法第21条)
(3)試用期間中の解雇理由は、本採用後に比べ広範囲で認められているが、その場合でも客観的・合理的であり、社会通念上で見たときに正当性があることが必要である。
(4)(3)の例としては、下記のケースが挙げられる
 ・正当な理由がないのに、欠勤や遅刻を繰り返す場合
 ・健康上の理由で就業が困難になり、なおかつ回復が当面見込めない場合
 ・経歴詐称があったことで、採用時の条件を満たしていない、業務に就くことができないことが露見した場合
 ・上司が再三注意や指示、指導を行っているにも関わらず、一切従わないなど勤務態度が極めて悪い場合 など
(5)Bの場合、現状では(4)のどのケースにも該当せず、解雇した場合無効になる可能性が高い。

「試用期間中でも、B君のような理由ではクビにできないんですね? これで安心しました。戻り次第、すぐにC社長に報告します。この件について会社はどう対処したらいいですか?」
「Bさんには宿泊研修が必要な理由と重要性を理解してもらうよう十分な説明を行うことと、部屋割りですが、Bさんの悩みに対して可能な限り特別の配慮が必要です」

 そして続けた。

「それでもBさんが宿泊研修を拒否した場合、本社内でのオンラインや座学研修もやむをえないと思います。まずは彼が宿泊研修に参加できるよう、更に工夫をしてみてください」

 A部長は大きくうなずいた。