投資家との対話を
長期戦略を練るチャンスと捉える

 サステナビリティ関連の情報開示への準備を怠る上場企業には、グローバル投資家の厳しい視線が向けられる。

 世界10カ国で戦略的株主コミュニケーションに関する助言を行うGeorgeson社が行った、2022年11月のグローバル投資家調査によると、87%の投資家は上場企業に対して厳密なサステナビリティ指標の設定・開示を求めると同時に、63%の投資家が気候変動関連の経営指標を上場企業の役員報酬に反映させるべきだと考えている。

 そうした役員報酬を導入していない企業に対しては、30%のグローバル投資家が議決権行使で反対票を投じる可能性があるとも回答している。

 上場企業には、これらの外部圧力をプラスに変えるしたたかさが求められる。投資家とのエンゲージメントに備えて、気候変動リスクや機会の財務影響に思索を巡らすことは、自社の事業環境、競争戦略、事業ポートフォリオを長期視点で再考する契機となる。

 ここで重要な役割を果たすのは、財務インパクト試算だ。気候変動などの財務影響を定量的に試算するためには、会社全体の財務数値を、事業別、拠点別、製品別の活動量や単位コストなどに「因数分解」する必要がある。

 自社の活動を単位当たり指標に分解することで初めて、全社の漠然としたアウトプット指標の将来目標は、各事業・組織の具体的なアクションプランに変わる。

 投資家との対話に備えて、長期的な視座で仮説思考を行い、具体的な財務試算にかかる因数分解を経て、具体的な行動計画に落とし込む。このアプローチは、気候変動に限らず、事業戦略全般においても有効なはずである。

 次回は、サステナビリティ開示の集大成とも言える「統合報告書」作成のポイントについて解説する。

(フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター 企業価値戦略部長 山手剛人)