日本の小さな会社たちをすくい上げる手立て

 だから、「賃上げラッシュ」がいくら起きても、日商が「中小企業の6割が賃上げ予定」というニュースを出しても、日本の賃金は何も変わらないのだ。

 さて、そこで気になるのは、「じゃあ、どうする?」ということだろう。「賃金を上げられない小さな会社」を賃上げしてもらわないことには、日本の賃金はいつまでも経っても上がっていかない。大企業や日商会員の中小企業とは別の世界で商いをしている「零細企業」にどう賃上げをさせていくのか、という悩ましい問題に突き当たる。

 いろいろな意見があるだろうが、筆者は「最低賃金の引き上げ」しかないと思っている。

 そう聞くと、こんな状況で最低賃金を引き上げたら、「賃金を上げられない小さな会社」に「死ね」ということか、というお叱りを受けるかもしれない。

 ただ、「賃金を上げられない小さな会社」はある程度のプレッシャーを与えなければ、いつまで経っても成長できず、零細企業のまま補助金で延命していくしかないという厳しい現実がある。

 だから、心を鬼にして、零細企業が成長するための手厚いサポートをしながら、最低賃金の引き上げをしていくのである。「賃金を上げられない小さな会社」が税金でつぶれないような延命をするのではなく、最低賃金の引き上げと経営のサポートで鍛えあげる。それが結果として、零細企業をよみがえらせて、日本経済の復活にもつながるのだ。

 実際、日本以外の先進国では「最低賃金の引き上げ」を経済政策として継続している。意識の高い中小企業経営者もそこに気づき始めている。2023年度の最低賃金額の改定について、最低賃金を「引上げるべき」と回答した会員企業は42.4%となり、「引き下げるべき」「現状の金額を維持すべき」との回答(計33.7%)を上回った。ちょっと前までは、日商では最低賃金を引き上げるなという大合唱だっだが、さすがにそれでは何も変わらないということに多くの経営者が気づき始めたのだ。

 最低賃金を引き上げるのは長期的には、中小企業を強く成長させていく。そういう大局的な視点で、「賃金の引き上げ」というものをあらためて考えるべきではないか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)