自身の法的問題を
国家的な問題にすり替え
注目すべきはトランプ陣営がトランプ氏の過激な発言を巧みに利用して、支持者の間に「これは個人の法的問題ではなく、不公正な司法制度の問題であり、トランプ氏はその被害者だ」というイメージを広め、その上で寄付を募っていることだ。
この両者の連携がうまく機能しているからこそ、支持者の多くは寄付しようという気持ちになるのであろう。おそらく彼らにとってトランプ氏は、「不公正な司法制度と戦っているヒーロー」のように見えているのではないか。
トランプ氏は選挙集会やSNSなどあらゆる手段を利用して、自分にとって都合のよい情報(その多くは根拠のないうそ)を拡散し、支持者に信じ込ませようとしている。
たとえば、3月25日、テキサス州ウェイコで行った大統領選に向けた大規模集会では、検察批判を繰り返した後、「今の時代の中心的な問題は、民主党やバイデン政権が司法機関を政治的な武器として利用していることだ」と述べた。つまり、自身の法的問題を国家的な問題にすり替えて、選挙戦の主要な争点にしていくとしたのである。
このようにトランプ氏は自分に降りかかった問題の論点をすり替えて有利な状況に持っていく「特殊な能力」を備えており、「詐欺の達人」と言われるゆえんである。
ニューヨーク州の司法当局は2022年9月、トランプ氏一族が経営する企業「トランプ・オーガニゼーション」が純資産を偽るなどして銀行から有利な条件で融資をだまし取ったとする金融詐欺などの疑いで、トランプ氏と子どもたち3人に対して民事訴訟を起こした。
その際、ニューヨーク州のレティシア・ジェームズ司法長官は、「実際に持っていない資産を保有していると主張することは“取引の達人”ではなく、“盗み(詐欺)の達人”がすることです」と述べ、トランプ氏を批判した。
また、共和党全国委員会の広報部長などを経て、現在共和党の戦略立案者を務めるダグ・ハイア氏はこう述べている。
「トランプ氏は全ての出来事を自分の利点にしてしまう能力があります。どう見ても理解に苦しむようなことでも有利な状況につなげていく。他の候補と異なり、ルールは適用できない人なのです。2016年の大統領選で立候補を表明して以来、“今の政治システムは不当だ。国民や自分にとって不利な仕組みだ”という一貫したメッセージを打ち出し続けてきました。これは短期的に見れば、共和党の予備選では支持を固める要素になります」(PBSニュースアワー、2023年3月22日)。