治療も進化しているのに
トラブルが多い原因とは?
昨年12月、大学病院で3年連続して誤って別の親知らずを抜歯したことが報道されました。これは親知らずに関する医療過誤ですが、診療科内でのコミュニケーションの問題であり、抜歯技術の本質的問題ではありません。
親知らずの抜歯で最も慎重になるのが、親知らずの近くを走行する神経への損傷です。これは特に下の親知らずの場合に問題になり、この神経が損傷を受けると唇の感覚が鈍くなることがあります。最近は事前にCT検査で三次元的に診断してから手術を行うので、神経損傷の確率は0.5~1.5%と低く、発生しても時間とともに感覚が回復することが多いです。
前述したWinter分類の「ClassIII―Position C」は最も難易度が高いのですが、それに伴い骨を削除する量も多くなり、顎骨の強度が著しく低くなります。僕が抜歯したケースではないのですが、骨をたくさん削った影響で骨が弱くなり、下の顎骨が折れてしまった方の治療を経験したことがあります。
通常の骨折では折れた骨の断端と断端を合わせて固定すれば良いのですが、このケースでは骨を削りすぎて重ね合わせる骨の断端がありません。ですから別の部位から骨を取って、骨折部位に補充して強固な固定を長期間しました。ところが、やっとつながり退院した日の帰路で、退院祝いにおすし屋さんでアワビを召し上がったそうで、硬いアワビをかむときに再び同じ所の骨が折れて、帰宅する前に再び入院加療となりました。
下の親知らずを取り出す際に的確に抜去しないと、傷口の軟膜内側を伝って喉に歯が迷入することがまれにあります。また上の親知らずは蓄膿の穴(上顎洞)に近接していることがあり、誤って親知らずを穴の中に落とす可能性も。外科手術なので、出血や感染などのリスクは常にあります。
親知らずの状態は個人差が非常に大きく、「たかが親知らず」だと思わず「されど親知らず」なので、ご自身が信頼できる歯科医師としっかり相談をして治療方針を決めてください。