「馬よりも走る」伝説のOB
大澤明の猛練習とは?

 大澤明は「馬よりもよく走った」。小宮山も多くの練習量をこなしてエースとなり、ドラフト1位でプロ入りを果たした男だ。その小宮山が一目も二目も置くほど、大澤の走りっぷりはすごかった。

 二人は下級生時代にバッティング投手を務めた。当初より制球力のあった小宮山と比べると、大澤はゲージにすら球が入らないほどのノーコンだった。上級生打者の威圧を受けるせいもあるだろうが、ブルペンでの投球練習でも捕手が疲れてしまうくらいの荒れ球。そこで走るしかないとグラウンドをひたすら走った。

 当時のグラウンドのレフト奥には馬術部が活動していて、「馬と競走するように、泥にまみれて走った。血のにじむような努力だった」と小宮山は当時を振り返る。うれしそうに語るのである。

「ストライクがまるで入らなかったとき、大澤は退部したいと落ち込んでいた。それで、身体が壊れれば辞める理由にもなるだろうと、限界を超える気持ちで走り込んだ。毎日、走れなくなるまで走ろうと。ところが身体は壊れない。練習後に、『でも、走れちゃうんだよ』と笑っていたもんです」

 小宮山は同期の言葉をしみじみとまねた。

 小宮山らが3年生の春、「鬼の連藏」こと石井連藏がチームに再びやってきた。石井監督は走り込んでスタミナのある大澤を、一時的に右翼手にコンバートした。

「外野に転向したことで、それまで山なりの遠投と、小手先でストライクを取ろうとしていたものが、全身で低い球を投げることで肩が良くなり、制球力アップのきっかけになったと思います。」(週刊ベースボール増刊「大学野球」2019春)と、大澤は雑誌のインタビューで語っている。とにかく数を走ることで下半身と体幹が安定し、メンタル面でも大きな自信になったというのだ。