「0円でもやりたい」と思えるか

―― 阿部さんは、選ばれるには何が必要だと思いますか。

阿部 広告賞とかデザイン賞って、とにかく王道的なみんながかっこいいと思うものを追求して、そこのてっぺんを取るみたいな方法がありますよね。それも1つだと思うけど、もう1つが裏道を発見する方法です。まだ誰もやってないこと。僕はお笑いが好きなんでM-1とかに例えると、まだやってないフォーマットでハライチさんが笑いをかっさらったり、ぺこぱさんが全部肯定する漫才で目立ったりみたいな。僕は元々人事からスタートしてて、クリエイティブ試験を受けて突破したんですけど、そういう自分ができることって何かなって考えて「企画でメシを食っていく」という連続講座を立ち上げたり。自分の活動やプロジェクトにコピーを活かしていくという方向に舵を切りました。

―― 広告業界の中では、阿部さんのポジションは独特ですよね。

阿部 周りの人から見ると、変わったことやってるなと見られてるかもしれないですけど、自分にとってはすごく好きなことで、モチベーションが持続するんです。みんながやってることの中でてっぺん目指すのもいいけど、ちょっと空いてるゾーンというか、まだ誰もいないブルーオーシャンを見つけて、そこで自分が生き生きやるのがいいなっていうのはいつも思ってます。

―― 阿部さんと言えば、勝手にクライアントに提案に行く「自主プレゼン」が有名ですよね。「自主プレゼン」のコツとは?

阿部 基本的には「0円でもやりたい」と思えるかどうかす。これまでいろんな企画書を作って提案しに行ったことあるんですけど、やっぱり1番のファンであることだったり、誰よりも相手の商品をよく知ってるからこそ、こうした方がいいんじゃないかとか、ここもったいなくないですかみたいに言えたり。愛と熱を一緒に企画書に託して持っていって、「確かにそうですね! やりましょう」となればいい。それでお金をもらうとかよりは、関係性ができる。次の機会にこういう案件があるんだけど、あの人に相談しようとなっていくんじゃないかな。

―― お金以外に貯金できるものが見えてくると。

阿部 そうですね。(後編へ続く)

「ダメだった」に魔法の4文字を足すと奇跡が起こる阿部 広太郎(あべ・こうたろう)
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。尾崎世界観率いるクリープハイプがフリーマガジン「R25」とコラボしてつくったテーマソング「二十九、三十」を企画。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、エンタメ領域からソーシャル領域まで越境しながら取り組んでいる。パーソナリティーを務めるラジオ番組「#好きに就活 『好き』に進もう羅針盤ラジオ」はAuDee(オーディー)で配信中。2015年から、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。