給与収入だけで老後資金をまかなえるのか不安に思う人が増えている。多くの人にとって「投資」が避けて通れない時代になってきた。資産を増やすという点で大きな選択肢の1つになるのが株式投資だ。「株投資をはじめたいけど、どうしたらいいのか?」。そんな方に参考になる書籍『株の投資大全ーー成長株をどう見極め、いつ買ったらいいのか』(小泉秀希著、ひふみ株式戦略部監修)が3月15日に発刊された。「ひふみ投信」の創始者、藤野英人氏率いる投資のプロ集団「ひふみ株式戦略部」が全面監修した初の本。株で資産をつくるためには、何をどうすればいいのか? 本連載では、特別に本書から一部を抜粋・編集してその要旨をお伝えしていく。

1株益とPERで株価のシナリオを考える(2)トヨタ自動車のケースPhoto: Adobe Stock

1株益とPERでシナリオを考える②
トヨタ自動車

 トヨタ自動車(7203)は日本で最も多くの利益を稼ぎ、時価総額も日本最大を誇る会社です。自動車メーカーとして世界で最も稼いでいる会社でもあります。

 営業利益は横這いで伸び悩んでいますが、売上高と経常利益は順調に伸びています。グループ全体として伸びているという状況です。

 しかし、2022年8月時点ではPERは12倍前後と比較的低い状態となっています。

 トヨタ自動車に対して投資家たちが今一番不安に思っているのは、電気自動車や自動運転の時代に入りつつある中で、その対応が遅れているのではないかということです。

 同社は、もともとガソリン車、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(EV)と全方位的に取り組んでいく戦略を採っており、電気自動車についても前面的に打ち出していなかっただけで、着々と技術的な蓄積やノウハウの蓄積は行っていました。

 そして、2021年12月には、「2030年までにEVを乗用車から商用車までフルラインナップで30車種投入し、年間350万台の販売を行う体制を整える」ことを発表しました。

 さらに、「2030年までにEVに4兆円の投資を行うこと」や、「電池を含めて2030年分までの材料も確保できている」ということなども発表しました。

 電気自動車の生産・販売台数や収益で圧倒的な世界トップ企業はテスラであり、現在のところ、電気自動車分野で圧倒的な優位性を築いているのはテスラであることに間違いないでしょう。

 しかし、トヨタ自動車もEVに関する技術力や部材の調達体制は整えてきており、これまで培ってきた生産体制・販売体制・ブランド力・技術力・資金力などはEV分野でも大きな力となると考えられます。テスラだけで世界のEVの需要を全て満たせるわけではなく、主要なプレーヤーは何社か併存することになる可能性がありますし、その一社にトヨタ自動車が入ってくる可能性もあります。

トヨタ自動車の
楽観シナリオと慎重シナリオ

 トヨタ自動車が今後どうなるかは成り行きを見守らなければならない面もあり、楽観シナリオと慎重シナリオを考えておく必要があるでしょう。下図はその1つの例です。

 上図で示した5年後の楽観シナリオ①は、ある程度成長性を取り戻し、1株益が250円に伸びて、PERも15倍まで回復、その掛け合わせで株価は3750円になる、というものです。

 一方、慎重シナリオ②は、1株益は伸び悩んで150円程度となり、PERはさらに下がって10倍になり、その掛け合わせで株価は1500円になるというものです。

 楽観シナリオだと株価は78%プラス、慎重シナリオだと株価は29%の下落となります。このシナリオに基づくリスク・リウォード・レシオは、78÷29≒2・7とまずまずの水準です。

 もともとのPERが比較的低いので、楽観シナリオになった場合のプラスが大きく、慎重シナリオになった場合のマイナスが比較的小さくなっています。