赴任後2カ月で3社が倒産
厄払いで訪れた島根で会った人物
そして、これからお伝えする出来事により、私は二度と保養所を利用しなくなった。
さいたま新都心支店に取引先担当として赴任して間もなく、2カ月の間に担当していた3社が倒産。大殺界でもやってきたのか。私は後始末に忙殺されていた。
「また目黒のところかよ!お前、どうなってんだ?呪われてるんじゃないか?」
私の報告書を読んだ融資課長があきれていた。以前から兆候を察していればまだしも、着任したばかりでの突発的な破綻となれば、処理に途方もない時間と体力がそがれる。私は疫病神扱いだった。
「厄払いに行ってこいよ。そうそう、出雲大社ってのは日本の神社の最高峰なわけよ。まあ、銀行でいえば日本銀行ってところかな!そこで拝んでダメならダメよ。おはらいでもしてもらえ。ついでに、島根保養所で温泉にでも浸かって気分転換してこいよ」
融資課長のアドバイスに悪気はなかった。取引先が破綻した苦労は、私の直属上司より何倍もわかっている。そして、私は呪われてるのだ。家内とまだ未就学児だった長女を連れ、週末を使って島根の保養所を訪ねた。
出雲大社でおはらいを受けた後、近隣の観光地を巡り、くたくたになって保養所へ。大浴場で体を癒やしていると、この数カ月の心労が少しはラクになった気がした。そして、家族水入らずの夕食を楽しんだ。リーズナブルな宿泊料金にもかかわらず、料理の質は老舗旅館にも引けを取らない。私たちは満足していた。
そのときだ。向かいの卓にいる家族連れのご主人から、思わぬ声をかけられた。
「目黒?目黒やないか!おーっ、久しぶりやなあ!」
ハッとした。私の初任地・吹田支店で仕えていた、あのお調子者の村石課長だった。家内も私も結婚披露宴を開く予定がなかったにもかかわらず、「披露宴をやれ、支店長に仲人をお願いしろ」と私に命令した挙げ句、当日は先輩たちが酒類を勝手に注文し、数十万円の赤字となったその「惨劇」の張本人だった。
拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』を読んだ方なら覚えているだろう。ネットに書き込まれた拙著の感想でも、このエピソードを取り上げる人がかなり多い。