無言のまま卓を囲み
明け方近くにようやく解放

 部屋を出るときの、家内のあきれた表情を今でも覚えている。娯楽室に入ると卓球台の隣に2つの電動麻雀卓があり、メンツが待っていた。

「おお!遅いんや。すんまへんな、私の前の店の部下ですわ。よろしゅうお願いします」

 支店長とやらは自己紹介すらなく、早く座れと言わんばかり。麻雀中毒とでもいうのか、麻雀しか興味がないのか、麻雀の相手などどうでもよいのか。麻雀をしているときこそ人間性が出ると聞いたことがある。この時代、この手のタイプはよくいた。他人に全く関心を抱かず、ひたすら自分の楽しみを優先する人だ。

 全員が無言だった。電動卓の中でジャラジャラと牌(パイ)のこすれる音と、静かなかけ声が飛び交うのみというのは、その卓を仕切る支店長の趣向なのだろう。お調子者の村石課長までが、言葉少なく牌をつまんでいる。

 結局、最後まで私の名前も所属も聞かれることはなく、明け方近くに解放された。私は朝食もとらず、チェックアウトの時間まで爆睡した。案の定、帰路での家内は不機嫌だった。当時、私を含め若手行員といえば、深夜残業や徹夜も断続的にあり、やっとのことで手に入れた家族との休暇だった。とんだ旅行になってしまった。

 同期や後輩とばったり出くわすのならまだいいが、過去に仕えた上司だったり、仲がうまくいってない同僚だったりすると、さすがにきつい。プライベートで社内の上下関係を強いられるなど、愚の骨頂だ。再び保養所施設を使うことはなかった。