新田龍 著
とくに3つ目の要素は、違反したからといって特段の罰則があるわけではない。しかしこれからの時代、単に法律を守るのみならず、「社会的規範や倫理的ルールを意識し、遵守したうえでビジネスをおこなっていく」との姿勢を示すことは、企業が社会的責任を果たすうえで根幹となる要素であり、消費者や取引先からの信頼を獲得するためには必須であるといえよう。
実際、要素として挙げたうちのひとつ「誠実さ」については、近年ビジネスシーンにおける重要度も日々増している。おもに欧米企業で、経営方針や社員が持つべき価値観として頻繁に使われるようになった「インテグリティ(integrity)」との用語があるが、こちらなどまさに「誠実」「真摯」「高潔」といった概念を意味する言葉だ。近年では特に、組織を率いるリーダーやマネジメント層に求められる重要な資質と認識されている。「マネジメントの父」と称されるピーター・ドラッカー氏は、「インテグリティこそが組織のリーダーやマネジメントを担う人材にとって決定的に重要な資質である」と述べているし、「世界一の投資家」と言われるウォーレン・バフェット氏も、人を雇うときに求める3つの資質に「インテグリティ」「知性」「活力」を挙げているほどだ。企業において「誠実さ」は、健全な組織を運営し、公正なビジネスによって成果を上げるために欠かせない要素である以上、誠実であることを行動規範として明確に示しておく必要があるだろう。
昨今はとりわけ、問題発言と絡めて組織の不祥事が数多く報道され、モラル意識の低い企業の悪行が目立つように感じられる。しかしこれは、「以前よりも違法行為をする人や会社が増えたから」ではない。(それどころか、刑法犯の認知件数は現在19年連続で減少中で、平成27年以降は毎年、戦後最少を更新し続けている※)むしろ、我が国の社会や経済の構造が「公正であること」をより重視するように変化してきており、その変化に対応できないまま、モラル意識やコンプライアンスに無頓着な人や組織が、ネット上やメディア上で炙り出されやすくなった、と認識するほうが正確であろう。
※法務省「令和3年版犯罪白書」参照、2022年執筆時点のもの