「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

ヒトは旧石器時代の環境に最適化するように「設計」されている

 現代の進化論では、ヒトは進化の大半を過ごした旧石器時代の環境(進化適応環境:EEA)に最適化するように「設計」されていると考える。現代の狩猟採集民の環境がEEAにもっとも近いとするならば、タンザニアの狩猟採集民であるハッザ族の成人は、軽度の活動に約4時間、中強度の活動に2時間、高強度の活動に20分を費やしている。それに対してアメリカなど先進諸国の典型的な成人は、軽度の活動を約5時間半行ない、中強度の活動はわずか20分、激しい活動はほんの1分未満しか行なっていなかった。

 活動の強度は心拍数を基準にし、「軽度の活動」は料理やゆっくり歩くこと、「中強度の活動」は早歩き、ヨガ、庭仕事など、「高強度の活動」はランニング、跳び箱、山登りなど最大心拍数の70%以上まで上がる運動だ。

睡眠と散歩・運動は誰でもいますぐ始められる最強の成功法則。では、もっとも効果的なエクササイズは何かPhoto: プラナ / PIXTA(ピクスタ)

 ここから、現代人に求められているエクササイズの基準はあまりも高すぎることがわかる。進化論的にいえば、日常生活でハッザ族程度の活動をすればじゅうぶんで、それ以上の運動にさしたる意味はない。

「もっとも効果なエクササイズは何か」については諸説が入り乱れているが、大量のエビデンスに基づいて世界各国の保健機関が推奨するのは、「週に少なくとも150分の中強度または75分の高強度の有酸素運動を行ない、それに加えて2回のウェイトトレーニングを行なう」に集約できるという(子どもについては一日最低1時間の運動)。

 運動嫌いなひとへの朗報は、健康を維持するのに、雨の日でも走ったり、ジム通いしたりする必要はないことだ。運動の限界効用が逓減するからで、まったく運動していないひとが軽いエクササイズを始めると大きな効果があり、そこからウォーキングやジョギング、ウェイトトレーニングなどに進むとさらに効果が上がるが、高強度のトレーニングでフルマラソンや筋肉むきむきを目指しても健康効果はほとんど変わらない。逆に一部でいわれているような、極端なレベルの運動が悪影響を及ぼす(長距離ランナーの心室が肥大化して「スポーツ心臓」になるなど)証拠も、ケガをするリスクを除けばまったくないという。

 これをまとめると、散歩するときはできるだけ早歩きで、可能なら、それに軽いジョギングや腕立て伏せを加えるといいようだ。

 睡眠と散歩・運動は誰でもいますぐ始められる最強の成功法則だ。これは朗報だが、しかしそうなると、時間制約はますますきびしくなる。運動する時間や、日中、ぼーっとしている時間も加えれば、1日のうちに自由に使えるのは6~8時間になってしまうだろう。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

●橘玲(たちばな あきら) 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』ダイヤモンド社刊『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。