「幸福」を3つの資本をもとに定義した前著『幸福の「資本」論』からパワーアップ。3つの資本に“合理性”の横軸を加味して、人生の成功について追求した橘玲氏の最新刊『シンプルで合理的な人生設計』が話題だ。“自由に生きるためには人生の土台を合理的に設計せよ”と語る著者・橘玲氏の人生設計論の一部をご紹介しよう!

睡眠と並んで「成功」に重要なことは、歩くこと。毎日25分の散歩で4年長生きできる!Photo: elise / PIXTA(ピクスタ)

毎日25分の散歩で長生きできる

 睡眠と並んで成功にとって重要なのは、歩くことだ。これにも大量かつ頑健なデータがある。

 チンパンジー、アウストラロピテクス(猿人)、ネアンデルタール人(旧人)、初期のホモ・サピエンス(新人)の関節部の化石をCTでスキャンし、海綿骨密度を計算したところ、いずれも30~40%だった。ところが現代人の骨密度は20~25%と大幅に低い。わずか1万年でこのような遺伝子の変化が起きるとは考えられないから、その理由は環境の変化にあるにちがいない。それは、わたしたちが祖先よりも動きまわらなくなったことだ。

 女性は、骨形成を促進するエストロゲンのレベルが加齢や閉経によって低下すると、骨が自然に細くなっていく。現代人はもともと骨密度が低いため、加齢によるさらなる低下が骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や骨折につながるおそれがある。

 アメリカ国立がん研究所が65万人の10年間のデータを調べたところ、毎日25分間の散歩に相当する運動をするひと(肥満者を除く)は、運動不足のひとより4年ちかく長生きすることがわかった。毎日10分のウォーキングでさえ、寿命に2年の差が見られた。

 ケンブリッジ大学の研究チームが30万人以上のヨーロッパ人のデータを調べた研究でも、運動不足による死亡リスクは肥満によるそれの2倍で、毎日20分の散歩が死亡リスクを3分の1下げることがわかった。

 アメリカ人女性の8人に1人が一生のうちに乳がんと診断され、毎年アメリカで4万人、世界で50万人以上が乳がんで死亡するが、散歩が乳がん(とりわけ乳がん全体の3分の2を占めるエストロゲン受容体陽性乳がん)の発症リスクを下げるとの研究もある。運動が性ホルモンに結合する分子の産生を高め、エストロゲンの血中濃度を10~15%低下させるかららしい。

 変異が起こった場合でも、運動には傷ついたDNAの自力修復を助けるはたらきがあるようで、1日に少なくとも20分運動する被験者は、DNAのコピーミスを修復する能力が1.6%高かった。乳がんと診断された女性5000人ちかくを対象にした調査では、運動(週1回1時間のウォーキングだけでも)が死亡リスクを約40%低下させた。―同じ研究で、男性についても、中強度の運動で13種類のがんのリスクが低下することが明らかになった。

 ウォーキングは心疾患を防ぐ効果もある。頻繁に歩くひとは座りっぱなしのひとより心拍数が少なく血圧が低い。1日30分歩くと、冠動脈疾患のリスクが18%下がるという。

 そもそも冠動脈疾患は、狩猟採集民にはまず見られない。タンザニア北部のハッザ族は年をとっても血圧やコレストロール値が低く、心疾患は皆無だ。

※この記事は、書籍『シンプルで合理的な人生設計』の一部を抜粋・編集して公開しています。

●橘玲(たちばな あきら) 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』ダイヤモンド社刊『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。