中国での対外情報活動が牽制される一方で
中国による情報活動は摘発できない日本

 今回の董氏の件からは、中国による日本のインテリジェンス・コミュニティー(日本の情報機関など)への警告という隠れた意図が見えてくる。

 まず、中国国内に対しては、中国当局が外国関係者とネットワークを持つ董氏を検挙することにより、「外国との疑わしい接触・コミュニティーを構築させない」意思を示し、ある意味「言論封殺」を行うことで、自国体制の安定を成し遂げたい意図が見える。

 それは董氏の取り調べの際に、中国当局が日本大使館側との交流について強い関心を示していることからも窺えるだろう。

 そして、国外に対しては、特に日本へのメッセージとして、中国当局は「日本の機関による自国民(中国)との接触を把握している。自由に活動させない」という日本のインテリジェンス・コミュニティーへの圧力を暗に示していると思われる。過去の日本人拘束事件では、公安調査庁との接触があったとしてスパイ容疑で日本人が摘発された経緯もあり、特にそのメッセージは強烈であろう。

 仮に、日本国内において、ロシア外交官によるスパイ事件の疑いがあった場合、日本の捜査当局は外交官の身分を保障するウィーン条約を犯してまで、そのロシア外交官を拘束しようとはしない。

 中国当局としては、董氏が日本の大使館職員と接触することは把握していただろう。にもかかわらず、ウィーン条約を犯してまで日本大使館の職員を、一時拘束するという強硬かつ不誠実な手段に筆者は憤りを覚えるが、それと同時に中国の意思の強固さが見て取れる。

 その一方で、中国非公式警察問題(参照https://diamond.jp/articles/-/321594)をはじめ、スマート農業の技術情報持ち出し事案の発覚(参照https://diamond.jp/articles/-/320753)など、中国当局の活動は日本においても活発に行われている状態である。

 要するに、日本は中国から対外情報(収集)活動を強硬に牽制される一方で、防諜活動の面ではいまだ効果的に防ぎきることができていない。