「結構です」の代わりに
「大丈夫です」を使う時代

 非常識なやつだと思われていたかもしれないどころではなく、あぜんとされていたかもしれない。撮影行為どころか、写真をネット上で拡散していたわけで、「インスタに上げる1、2枚だけ」という認識もすごい。このユーザーは現在ではひどく反省しているようなので責める気にはなれないが、SNSを見ると、このような思い違いをしている人は少なくないようだ。

 このほかにも、「ご遠慮くださいはなんとなくわかってたんですけど、お控えくださいは控えめにやれば大丈夫かと思ってました」といった投稿がある。

 もしかすると、これまで「マナーを守る気がないなんて、なんて非常識なやつなんだ」と感じていた相手は、単に婉曲表現を理解していなかっただけなのかもしれない。

 直接的な表現だと角が立つような場面で、婉曲表現は使われる。「ご遠慮ください」や「お控えください」は、公共交通機関や施設の利用客などに向けた表現で見かけることが多い。

 駅や商業ビルのトイレでたまに「いつもきれいにお使いいただき、ありがとうございます」という張り紙を見かけることがある。あれは利用者に「このように見ている人がいるのだから、きれいに使わなくては」と思わせるための一種の婉曲表現だ。しかし、この婉曲の意味が伝わらない人からすると「確かに私はいつもトイレをきれいに使っているな。感謝されてしかるべきだろう」と自己肯定を促すだけの文章、ということになるのだろうか。

 また、近年では「結構です」という意味で「大丈夫です」という言葉を使う人が増えていると感じる。「お箸つけますか?」「大丈夫です」のやり取りを実際にしたり、見聞きしたことがある人は少なくないだろう。

 これも「結構です」「必要ありません」ではややキツいニュアンスに聞こえるために「大丈夫です」が代わりに使われているのだろうが、この使い方に慣れない人からすると、「何が大丈夫なの?」と違和感を持つようだ。

 ビジネスのシーンでは、場合によって「クッション言葉」を使うことが有効だとされる。

 「恐れ入りますが〜」「差し支えなければ〜していただけますか」「もしよろしければ〜しましょうか」などがそれにあたる。

 物腰柔らかに、相手に配慮していることを伝えるための表現であるが、これも受け取る人によってはニュアンスが異なって聞こえるのかもしれない。