アジア4拠点に共通した成功モデルで各国を底上げ

 中国、日本、インドからスタートさせたインサイドセールスは、瞬く間にアジア各国に広がっていきました。
 そのうちの一つであるシンガポールでのこと。日本からのメンバー、シンガポールのメンバー、そしてFさんと飲みにいったことがありました。

 そのときも、話は共通化から始まるので盛り上がります。もちろんビジネスの共通化ではありません。日本人だけの飲み会だと、つい、「日本のココが特殊だ、中国のこの対応はおかしい、シンガポールのこの独自性は無意味だ」などと、ことさらに違いを挙げてグチを語る感じになりがちですが、Fさんの加わる飲み会では、「どこも、この部分は一緒だろ。だから、みんな幸せになれるんだ」といった話しぶりで、共通するところを題材にもってきて話を広げる。だから、コミュニケーションそのものに信頼感をもつことができ、多国籍な飲み会でも会話のチャンスが生まれ、「この人と一緒にやれば仕事がスムーズに進みそうだ」という気持ちにさせてくれるのです。

 彼のプレゼンテーションもとてもスマートです。シンプルに伝えていく能力に卓越したものがある。よぶんなこと、例外事項はすべて省いて、整然と核心だけを伝えていく。だから聞く側も再現しやすい。
 私がスタートさせた組織でも、初年度に8人だった陣容が3年後には40人規模になっているのですから、それをマネジメントできるプラットフォームを小さなことから築き上げていたのではとても実現できません。共通化すべきことをピックアップして浸透させ、特殊性のあることは補強していくという視点に立たなければできないのです。日本語に一気通貫という言葉がありますが、Fさんのやっていたことはまさに、「ベストプラクティスを一気通貫させる」ということです。

 なお、「特殊性の補強」面でも、Fさんはユニークな手法をとっていました。全アジアのメンバーでテレビ会議を行い、問題点を話し合わせるのです。そのうえで、「問題点の共通する部分はココ」と共通項を指摘し、一網打尽に問題点を解決していく。特殊性の中身を共通化し、その解決を図れば、いっぺんに8割方は解決してしまうという手法です。
 また、共通化のために欠かせないのはプロトタイプを表現すること、つまり、設計書を見せるということです。Fさんは、この点にも注意を払っていました。中国でプレゼンしたパワーポイントの設計書を日本の指標に置き換えてつくり直し、さらに、それをインド向けにつくり直し、さらにつくり直したものをシンガポールに展開する。実際に行うのは日本では私で、そのほかの国では各国のリーダーが行うのですが、そうやってプロトタイプの精度を上げ、進化させていくのです。

 こういっては語弊がありますが、アメリカに偏りすぎると、自分のところがグローバルスタンダードだといいきって、半ば強制的にそれを全世界に広め、うまくいったら褒めちぎるような感があります。ところがFさんは、イタリア人でもあり、そのような対応はしませんでした。あくまでエッセンスが何かを見抜き、それを再現していく。そのための下支えする準備も万全にやっておく、というタイプです。
 これは、いいかえると、「土俵はどこか」を理解することともいえるでしょう。アメリカの場合は、もともと経済力もパワーもあるのですから、自国で成功すると、土俵がどこであろうともそれをそのまま広げようとします。ところがアジアをはじめ、ヨーロッパ、オセアニアなどの各国は、それぞれの事情があるので、同じ土俵だと思っていたら大間違いを起こすこともあるのです。

 そのとき、どのような共通化の手法をとるべきか。逆説的な言い方になりますが、共通化は、違う土俵であると理解してはじめて可能になるともいえます。XとYは違うということを前提にしているからこそ、共通化できる部分を抽出する必要があるのです。その理解があってこそ、相手の土俵に入り、その土俵から何かを吸収することもできますし、土俵を拡大することもできるわけです。
 Fさんと仕事をするなかで、このことの重要性をあらためて感じています。

(次回は3月15日更新予定です。)