日本の天皇陛下は
「参列しなくて正解」だった理由
最後に、そうした戴冠式に対する日本の関わり方についても触れておきたい。
既報の通り、今回は秋篠宮ご夫妻が、天皇陛下が差し向ける「ご差遣」として出席した。
これにはさまざまな批判がある。英国留学以来、英王室と40年の「家族同然の付き合い」をしてきた天皇皇后両陛下が参列すべきであったとの主張もある。
だが筆者は、天皇皇后両陛下は戴冠式に参列する必要がなかったと考える。
前述の通り、戴冠式での交流はビジネスカンファレンスのようなものだ。
日本は、英国の「グローバル・ブリテン」戦略における「最大のパートナー」という位置付けであり、すでに「新・日英同盟」と呼べる関係性を築いている。今回の戴冠式でも、秋篠宮ご夫妻は、各国の皇太子の中で最前列の座席を割り当てられた。
すなわち、英国との関係性が濃いとはいえない中で、「たった一言」でも会話して利益を引き出そうとする他国と日本とでは、まったく立ち位置が違う。
だから他国のように、天皇がわざわざ「格下」の席に座ってまで参列する必要はなく、名代を差し向けるのが正しい対応だったといえる。
ましてや、日本の皇室は世界最長の歴史を持つ、世界で唯一の「エンペラー(皇帝)」だ。英王室と同格か、格上の存在だという説もある(※)。
※八幡和郎、篠塚隆(2023)『英国王室と日本人:華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館)を参照。
また、ホストである英王室は多忙を極めている、天皇・皇后両陛下が出席したとしても、他国と同様、立ち話や晩さん会で少し話す程度で終わっただろう。英王室と長く会話する時間はなかったはずだ。
その場合、日本国内からは「英王室は失礼だ」と批判が起きたかもしれない。また、英王室との交流を深める時間を確保できなかったことに対して、天皇皇后両陛下に対する世論の支持が下がっていた懸念もある。
天皇皇后両陛下はもともと、英国から「国賓」として招待されていた。
両陛下は英国側の厚意に応えるためにも時期を改めて訪英し、先述した批判を生まない形で、チャールズ国王や英王室とじっくり親交を深めるのが良さそうだ。
日本は非キリスト教国にもかかわらず、イングランドの最高勲章「ガーター勲章」が歴代天皇に贈られている。今後の授与式で、今の天皇陛下にガーター勲章が授与される可能性もゼロではない。
もし受勲が実現した場合は、それに合わせて訪問するのが賢明ではないだろうか。