高齢者への普及の壁は
イニシャルコスト
健康維持にeスポーツを役立てるためには、長期間継続してゲームを遊ぶことが重要だ。また、特定の部位を強化するトレーニング性が高すぎると、ゲームのプレーが義務化してしまい、せっかくの娯楽性の高さを生かせず飽きてしまう恐れがある。
「『脳トレ』のように健康維持を目的にゲームを遊ぶのではなく、あくまで『楽しいゲームを遊びたい』という感情が大切で、ゲームを遊ぶうちに自然と健康を維持できるゲームが理想です。娯楽性がベースにあり、知的もしくは身体的なトレーニングができるというeスポーツの特徴を生かし、高齢者向けの新たなゲーム開発も可能だと考えています」
今後の高齢者向けのゲーム開発では、ゲームを楽しくプレーするうちに判断力や体力がつくような、ゲームの面白さと健康増進がかみ合う絶妙なバランスをとるセンスが求められるという。
「たとえば、遠方へ出かけるバーチャルドライブを楽しむゲームであれば、アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する訓練になります。場合によっては、免許返納が必要かどうかをアドバイスするシミュレーターの役割を果たせるかもしれません」
ゲームソフトの内容だけでなく、実際に操作するデバイスなどの周辺機器に関しても、高齢者の実態に即した開発が求められる。
「高齢者にとっては、キャラクターを動かしている実感を得ることが非常に重要です。ボタンの大きなコントローラーや、腕にセンサーをつけてバーチャル上に動作を反映させるデバイスなど、高齢者が扱いやすく遊びやすい機器の開発も必要になるでしょう」
また、高齢者が「ゲーム」を遊びたがらない理由の一つとして、“イニシャルコスト”の高さが挙げられるのではないか、と吉田氏は語る。
「ゲームを始めるにあたって、そもそもハードの購入にかかるコストが高いと感じる方は少なくないでしょう。また、ゲームのインストールやネット回線の準備など、ゲームを始めるまでの準備の時点でハードルが高いと感じる高齢者は多いです。こうしたハードルを克服できる環境づくりも重要になると思います」
吉田氏は、「来店すればすぐに遊べるゲームカフェのように、高齢者がゲームを遊びやすい環境を作り上げることで、高齢者のゲームプレー人口は増えるのではないか」と話す。
ゲームを気軽に遊べる居場所ができれば、1人暮らしの高齢者の孤独を新たなコミュニティーで解消できるようになる。
「ゲームのような娯楽イベントを通じて他者との交流が増えることで『高齢者の居場所』が確保され、社交性が保たれるだけでなく、認知症や介護を必要とする一歩手前のフレイルの予防にもつながるだろうと考えています」