金融機関がもうかりにくい
NISAビジネス

 ところで、NISAの口座獲得がどの程度もうかるビジネスなのか、スケール感を確認しておこう。

 例えば、つみたてNISAの口座を獲得して、この顧客が毎月約2万円、年間25万円を外国株式のインデックスファンドに積立投資してくれたら(数字は計算に都合よく設定した仮のものだ)、金融機関はどのくらいもうかるのか。

 積み立てが4年続いて資産額が100万円になったとしよう。取扱金融機関の収入は「代行手数料」として信託報酬の中から支払われるが、信託報酬の半分弱だ。

 この投資家が選んだインデックスファンドの信託報酬率が年率10ベーシス(10ベーシス=0.1%。1ベーシスは100分の1%である)前後だとして、代行手数料が5ベーシスあるとしよう。4年目時点の期待収入は年間500円だ。20年続くと、資産残高も代行手数料も5倍になり、資産の成長によってはそれ以上の収入が期待できるが、それでも年間2500円に加えて資産の増加分に見合う増収額程度にすぎない。

 ネット専業なら利益が出るかもしれないが、当面は赤字であって、10年後、20年後の会社の収益と後輩たちのために今、口座獲得に注力しているといった感じが、ネット証券でも率直な実感だ。

 ちなみに、一月に2万円程度の積立投資で、投資対象が外国株式のインデックスファンドという投資は、現在の若い投資家にありがちなものだろう。

 新NISAになって金額が大きくなっても、人件費の高いメガバンクが本体の銀行窓口で取り扱うには間尺に合わないビジネスかもしれない。彼らは現在、支店と店舗を減らし、ATMを減らして、国内のリテールビジネスを急激に縮小しようとしているように見える。新NISAも含めて、富裕でない普通の客向けのリテール営業は子会社である証券会社に割り振るつもりかもしれない。

 さて、ここでNISA口座を取り扱う金融機関側の「もうけにくさ」を説明したのは、金融機関側の苦労を知ってほしいから、というわけではない。

 彼らが人を使ってNISA口座の獲得を目指す以上、新NISAでは、特に「成長投資枠」(年間投資額240万円、一人トータル投資枠1200万円)を使って、もっと手数料が稼げる商売をしようとするに違いないからだ。この動機と背景を正しく知っておいてほしい。