「未成年者がマイナポイントを受け取るためには、クレジットカードや電子マネーなどがない中で、銀行口座を開いて公金受取口座として連携しなくてはならないんです」
なるほど。子どもに付与されるマイナポイントは、親が持っているSuicaなどへの付与も可能だ。しかし、子どものマイナンバーカードとその銀行口座をひも付けないと、7500円分のポイントは手に入らない。
「だから、銀行口座が必要だということです。K銀行は処理が追いつかず受け付けを断っているそうです。うちはどうします?」
「どうする?って…」
ロビーに目を向けると、子どもを乗せたベビーカーを引くお母さんがやたらに多い。皆が皆、イライラとこちらをにらみ、殺気立ってさえいる。1人当たり最大2万円、4人家族ならば8万円のマイナポイントを受け取ることができる。うちも断ると言い出せば暴動でも起きるんじゃないかとさえ感じた。
「いや、できる限りやろう。ただし、閉店時間以降は受け付けない。普段通りの対応で行こう」
「そう言うと思ってましたよ…」
課長代理がため息を深くつき、ロビー担当にインカムで指示を出す。
目黒冬弥 著
「3時までに入店したお客さまは全員受け付けます。マイナポイント申請を理由に口座開設を断らないように。以上」
課長代理のため息は理解できる。K銀行での口座開設を希望していた人が、断られたからうちに来ている。なぜそれをやらなければならないのか。尻拭いをしなければいけないのか。やるせない思いだろう。
私はこう感じた。きっかけがマイナポイントだろうが何だろうが、その子にとっては人生で初めて作った銀行口座である。使う使わないは別として、これも何かの縁に違いない。むしろ、当行をひいきにしてもらえるように、そして魅力的な銀行だと思われるために、まずは我々が頑張ればいいじゃないか。
そんな思いも抱きながら、今日も私は懸命に働いている。この銀行に貢献することをやめず、この銀行に感謝しながら。
(現役行員 目黒冬弥)