ハイスペックな陳さんを
「宝の持ち腐れ」に

 陳さんの突出したすごさがわかる。アメリカの非営利団体・ETSが運営し、約160カ国・約700万人が受験する「TOEIC Listening & Reading Test」。日本人の受験者が多いので、おそらく留学時代にこのテストへ挑んだのではないか。

 満点のスコアは990点なのだが、950点以上を取得するのは、受験者全体の約1%しかいないといわれている。ちなみに、900点以上でも全体の約4%しかいないそうだ。なお、英語を日常的に使う外資系企業に日本人が就職する際は、700点以上が望まれるとのこと。ちなみに、我が行の外資系法人向け取引先課の中途採用では、800点以上を応募条件と定めている。そのような中で、彼女が取得しているスコアは950点なのである。

「めちゃめちゃハイスペックじゃないですか!何者なんですか?陳さんは」

「なんでもお父さんが華僑で、東南アジアの食材卸で一財を築き、小さな頃から東南アジア各国を家族で移り住んでいたため、語学が堪能になったらしいです。中国人を採用する際、そういった人材は結構いるらしいですよ」

「そうなんですか。彼女にはどんな仕事をやってもらってるんですか?」

「仕事って…通訳が主ですかね。小規模の外資系企業を中心に担当させ…」

「えっ?ただの通訳だけですか?」

 奥歯に物が挟まったような、取引先課課長の歯切れの悪い言い回しを聞いてると、陳さんをどう扱ったらよいかわからないと見えた。結局のところ、活躍の場を与えていないようだ。

 目立った目標も与えず、ひたすら外資系企業の担当先の御用聞きをやらせている。成長著しい東南アジア企業への積極的な融資戦略を進めるには、こうした人物の登用が生きるはずだ。もしくは、本部のアジア企業投資部署に異動させるのもよい。これでは宝の持ち腐れだろう。育成にビジョンがなければ、成長など期待できないことは明らかだ。