外国人客への対応で知った
陳さんのすごすぎる実力
しかし、陳さんは違った。支店の営業職として配属された、正真正銘の実戦部隊。なぜ彼女が我が支店にいるんだろう?疑問は募るばかりだった。彼女が配属され半年ほどたったある日、その疑問が晴れた。
「グェンさま、グェンさまはいらっしゃいますか?」
何度も繰り返し、ロビー担当が呼びかけている。
「どうした?」
私がインカムを通じて尋ねると、
「外国人の口座開設のお客さまなんですが、何度呼んでも返事がなくて、どうしちゃったのかしら?番号札を持って外出したのかもしれません。困ったわ、順番が来てるのに」
ロビー全体を写しだす防犯カメラの映像を見ると、ロビー担当がキョロキョロと見回る姿があった。続いて、大きな声が聞こえてきた。何語かわからないが女性の声である。ロビー担当からインカムを通じて報告がある。
「課長、先ほどの外国人のお客さまですが、見つかりました。今、外回りから帰ってきたばかりの陳さんが対応してくれてます」
「そうか。よかったよかった。であれば、お客さまは中国の方みたいだね。ちょうど陳さんがいてくれて助かったね」
そんなやりとりがあり、帰ってきた陳さんに礼を言う。
「おかえり!陳さん、ありがとう。たまたま中国の人だったみたいだね。助かったよ」
「タダイマ。違うヨ、カチョサン。アノヒト、ベトナムノ人ダヨ。『グェン』トイウカラ、ワカラナインダヨ。『ングェン』ダネ」
「えっ?陳さん、ベトナム語できるの?すごいね!」
「ウン、話せるネ。ワタシ、イチバン苦手ハ中国ノ言葉ダネ」
驚いた。学生の頃すでに留学していたとはいえ、日本という異国の地で、日本語で仕事をしなければならないなど、私には想像もつかないくらいのストレスに違いない。にもかかわらず、中国人でありながら「中国語が苦手」など、ジョークのレベルまで高すぎて、凡人の私にはむしろ笑えなかった。とにかく陳さんの語学力に救われたわけで、彼女の上席に当たる課長に報告とお礼の電話をすると、
「目黒課長、ご存じなかったんですね。彼女、北京語と広東語は当たり前ですが、日本語、英語に加えてASEAN5カ国語を話せます」
「アセアン?」
「ASEAN諸国のASEANです。主要語のインドネシア、ベトナム、タイ、マレーシア、タガログ(フィリピン)語が堪能です」
「ああ、それでベトナムのお客さまを…じゃあ、陳さんは何カ国語話せるんですか?」
「ちゃんとはわからないんですが、英語はTOEIC950点をマークして、他にスペイン語もある程度わかるとか…」