「病気予防の食品」を国は認めず
タイはメディカルライスとして販売
渡邊氏らは医療用としての機能を持たせた米を「メディカルライス」と名付け、血糖値の高い人向けに血糖値の上昇をおだやかにする低GI米や認知症・脳梗塞など脳の病気に有効とされる発芽玄米の胚芽を大きくした巨大胚芽米、ポリフェノールを多く含む赤米や黒米を使った抗酸化食品などを研究中だ。
「病気の予防に使える食品を国は認めていません。以前、花粉症に効く米を農林水産省が開発しましたが、厚労省が認可せずに市場に出ませんでした。厚労省は製薬メーカーの薬品しか認めないし、予防も認めません」
メディカルライスは渡邊氏らの専売特許ではなく、すでに世界最大の米輸出国であるタイがメディカルライスの名称で黒米などを、一般の米に比べて3~5割高い値段で販売している。
中国には1億3230万人、インドにも1億1510万人もの慢性腎臓病の患者がいる。こうした人たちに低タンパク質加工玄米を届けることができれば、多くの人を助けることができる上に、ビジネスとしても非常に大きい。そうした可能性が期待され、AIやバイオなど将来性の高いイノベーションに投資する内閣府の官民研究開発投資拡大プログラムでも、農林水産分野から唯一採用された。
主食の米を改良することで、食事療法で病気を防ぐ。日本の医療行政では、糖尿病食など一部を除くとまだまだ認知度も低く、指導できる医師や栄養士も少ない。健康保険の対象として検討もされていない。
病気になったら大量の薬と高額な治療という現在の医療から、病気にさせないための医療への転換が絶対に必要なのだ。
医学博士。メディカルライス協会代表理事。慶應義塾大学医学部卒。同大学病理学専攻、アメリカ国立癌研究所、国立がんセンター病理部を経て、同疫学部長。その後、東京農業大学客員教授、国立健康・栄養研究所理事長を歴任。