自分のニオイに気付けないのは
「順応」と「慣れ」のせい
表立って話題にしづらいニオイの問題。だが、「スメハラ(スメルハラスメント)」という言葉もあるくらい、ビジネスパーソンが職場で悪臭をまき散らし続けることは、周囲にとって悪影響になりかねない。
「まぶしすぎる光を見たり、爆音を聞いたりすると、嫌な気持ちになりますよね。嗅覚も五感ですから、視覚や聴覚と同じように、強烈すぎる刺激を受けると不快感を覚えます。つまり、職場で不快なニオイを放っている人がいると、それだけで他の従業員は不快になり、QOL(生活の質)が下がるのです」
また最近では「五感に良い影響を与えることで気持ちよく働けるようになり、生産性が上がる」という研究がされているという。この反対で、五感に悪い影響を与える要素は、気持ちよく働くことを妨害し、生産性を下げるという捉え方もできるのだ。
「不快なニオイを嗅ぎ続けてストレスが高まると、それにより頭痛や吐き気を引き起こすこともあります。不快なニオイがクリティカルに健康面へ被害を及ぼすわけではありませんが、体調不良を引き起こすトリガーになるのです。ビジネスパーソンでは、体臭、口臭、汗臭、たばこ臭などが、知らぬ間に相手を嫌な気持ちにさせる不快なニオイの代表例と言えます」
今挙がったニオイのいずれかに、嫌悪感を抱いた経験がある人は少なくないだろう。なぜ人は、自分がこうしたニオイを発していることに気付けないのか。
「嗅覚が持つ『順応』と『慣れ』という二つの機能が関係しています。『順応』は、最初は『あれ?』と思っていたニオイが、徐々に気にならなくなる現象のこと。たとえば、恋人がシャンプーを変えた時、直後は『あれ?』と思っても、次第にそのニオイに順応するような、短期的な現象です。
一方の『慣れ』はより長期的で、ずっとそのニオイを嗅ぎ続け、自分にとって珍しいニオイではなくなっていく現象を指します。『順応』は鼻の感覚機能の低下、『慣れ』は脳の感度の低下が起きているのですが、自分の体臭がクサかったり、たばこ臭が強すぎたりすることに気付きにくいのは、『慣れ』が起きているせいだと考えられます」