祖父母と孫写真はイメージです Photo:PIXTA

孫に「老いていく姿」を見せ「生き方」を教えるのが祖父母の務めであり、大切な遺産となる。大学総長を務める教育のスペシャリストの著者が、さまざまな視点から「遺産」の残し方について提言する。※本稿は、坂東眞理子『祖父母の品格 孫を持つすべての人へ』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

絶対に必要なのは
「遺言を書く」こと

 高齢社会になり、またある程度の財産を持つ人が増えるにつれて、「遺産相続」に関心が集まっています。シンガポールのように相続税がない国もいくつかありますが、日本では同世代の配偶者への相続は優遇されます。しかし、子や孫のような次世代に残す場合は高率の相続税が課されます。また残された親族が相続をめぐって争うケースも増えています。相続は“争族”と言われるゆえんです。

 私たちの心情には、世の中は「色即是空、空即是色」なのだから、お金や権力には執着してはならないとする気分があります。また、西郷隆盛の「子孫のために美田を買わず」という言葉に共感する人も多くいるでしょう。また自分の持っている財産はたかが知れた額で富裕層とは程遠く、遺言を残すほどではないという思いもあります。そのためまだまだ遺言を残し相続に備える人は少なく、トラブルを残すことになりがちです。

 美田を残さないといった美徳は大事にするとしても、その一方で具体的にどう自分のものを配分し、次の世代に何を残していくか、その判断と伝え方は現代の高齢者のたしなみの1つです。