<安藤:南地検番はどないしても私たちの組合を認めてくれまへん。私どもはどないしても、腕ずくでも承認させねばなりませんのでっせ。ええですか、搾り取られていてだまってられまっかいな。

一同:そうだす! そうだす>

<光葉:いうともないが、検番はんは、阿呆や。あたいたちを従業員や思うてはる。むしろあっちが従業員やワ、ネェ姐ちゃん。

艶千代:徹底的にやらんと……。

万登代:団結は力でっせ>

 さすが芸妓だけあって、「籠城」中の生活も洒落たものだったようだ。

<五十畳の大広間にズラリと精進料理のお膳をならべて、お座敷では敷けない座蒲団を敷いて、お膳の横には般若湯(注・お酒)入りの徳利も並列させて、不夜城の女王さまが気焔をあげながら大いに飲み、大いに食うのであった。(中略)一昼夜この同勢だと通し花で千両箱が一つ吹っとんでしまうそうだから惜しいみたいでもあり、また豪勢なはなし>

 珍事だけに若干、浮かれ気味な筆致だが、芸妓らはいたって真剣だった。芸妓の一人・艶千代は手記にこう綴っている。

<演芸会一つにも自由に出られず、いちいち届け出て許しをうけ、そのうえに七十本というお花(揚げ代)をつけ自分の身体を自分で買わなければなりません。こんな口惜しいことがありましょうか。自分たちもよくいいました「まるで人間を菜っ葉か大根のように思うていやはるなア」と。でも目の前でじかにはっきり相手の口から聞かされてはいくら私たちでも黙っていられません>

<この苦しみこの悲しさは妾たちの腹の底にしみこんでいます。この苦痛をもう一度味わうことの辛さを思いますと妾たち鑑札を返上して下山するか、目的を達成して下山するか、二つに一つあるだけです>

 検番は当初相手にしなかったが、同情して休業する芸妓が4百人を超えストが長引くと交渉に応じ、3月6日に解決した。

 戦争が本格化すると、週刊朝日の報道も軍隊を礼賛するものばかりになっていった。そして、迎えた敗戦。焼け跡の中で、編集部も再びゼロから出発することになる。