悩み④──現場の社員が企業理念を自分ごととしてとらえていない

 策定した企業理念を社員に発表し、ウェブサイトに載せたりしたものの、策定プロジェクトに関わっていない大多数の社員は、理念と自分と結びつけられていない。せっかく自社なりの思想をつくったつもりなのに、自分ごととして感じている社員が少ないようだ。

【こんなときには?】理念についてのナラティブ(語り)を生む場をつくる施策が有効だ。本来的には、理念策定の段階から社員みんなが関わるべきだが、策定後に入社してきた社員へのアプローチを考えると、ナラティブを通じた自分ごと化の仕組みをつくるのが望ましい。

悩み⑤──会社が持っていた強みが薄れてきている

 急成長するなかで一気に採用する社員を増やしたり、M&Aなどで組織の規模が大きくなってきたりした結果、組織の過去について知っている社員の割合が減り、自社固有の強みが見えなくなっている。また、組織に対する愛着も十分に醸成されていない。

【こんなときには?】組織のヒストリー(歴史)を紐解き、それを共有することで、組織への愛着を生み出すといい。失われかけていた強みが再発掘される機会にもなる。

悩み⑥──企業理念が社員の現場の行動に落ちていない

 企業理念を策定したものの、社員たちの行動がそれを体現するまでには至っていない。理念が建前になってしまっており、個々の行動を起こす際の原理として機能していない。

【こんなときには?】理念と行動をつなぐカルチャー(組織文化)を見直す必要がある。組織文化を可視化し、理念を体現する行動を生む仕組みをつくったり、そうした価値創造モデルを可視化して共有することが効果的だ。

 危機はいつも、産業や企業の新陳代謝の契機になる。たとえば、日本の経営思想の元祖とも言える松下幸之助氏の「水道哲学」は、昭和恐慌下に生まれた。
 事業の存在意義を考え、本質に立ち返ることができれば、危機は企業にとって新たな進化へのチャンスとなる。他方で、「意義」を生み出すことに失敗した組織からは、ヒト・モノ・カネが離れていき、やがてその組織は淘汰される。

 いまは、まさにそうした危機の時代なのではないだろうか?
 その危機を打開するための資源が企業理念だ。