人は「データ」よりも「認識」で意思決定する

 これまでのキャリアで私はずっと、「過小評価」される人や「不利な立場」に置かれている人たちのことを研究してきた。起業したベンチャーに資金調達ができない人、組織で昇進できない人、平等な治療を受けられなかったばかりに救急救命室で命を落とす患者などについて研究してきたのだ。

 その結果、人の性格や能力をどう認識し、レッテルを貼り、決めつけていくかというテーマにも関心をもつようになった。すると、この人に信頼を置けるのか、熱意はあるのか、責任感があるのか、人とうまくコミュニケーションをはかれるのかといった判断が、客観的なデータよりも意思決定を左右することがわかってきた。

 1人の人間に対する他人からの印象が、個人や企業の成果に大きく影響を及ぼしているのだ。

 冒頭のエピソードでは、イーロンをごく自然に楽しませたからこそ、私たちは彼の心の扉を開け、どうせカネの無心にきた起業家だろうという誤解を解くことができた。そして、パっと見で判断した固定観念を捨てさせ、私たちが「こう見てもらいたい」と思っていた姿を見てもらえるようになった。その結果、私たちと有意義な話し合いができること、私たちの話を聞けば彼が新たな視点を得られることを証明できたのである。

 EDGEを獲得できる人は、相手を豊かにし(Enrich)、楽しませ(Delight)、こちらが望む方向に誘導する(Guide)ことができるうえ、このサイクルを繰り返して、いっそうの努力を続ける(Effort)。よって、本書の核をなすのは、この4つのキーワードだ。

 他人が自分をどう認識しているのか、そうした認識がどう作用しているのか、自分の性格や能力を他人がどう決めつけているのかがわかれば、あなたは毅然として困難に立ち向かい、成功に続く道を切り拓くことができる

(本原稿は『ハーバードの人の心をつかむ力』〔ローラ・ファン著、栗木さつき訳〕から抜粋、編集したものです)