日本企業はチャンスがあっても
「投資」を十分に行わない

 日本人経営者から見れば「年功序列はもうすたれたにせよ、終身雇用は依然残っていて、正社員は家族のようなものだからそれを守る責任がある」と考えるので、お金を手元にためる性向があるのです。「会社は、本当は従業員のもの」という昔の経営哲学が、上場企業の半数以上でいまだに続いているのです。

 これが海外の投資家から見ると不満なところです。日本企業は海外の投資家から見ると現金の保有比率が高いのです。その状況を「目の前にものすごく投資チャンスがあるのに投資をしていない」と受け止めるのです。

 わかりやすい例を若干デフォルメしながらお伝えすると、金融業界は少なくともアメリカの場合は、AIの台頭を大チャンスだと捉えています。実際に、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーといった会社では従業員の3分の1がITエンジニアやデータサイエンティストに置き換わり、内部は実質的にIT企業と呼ぶべき状態になっています。

 かたや日本のメガバンクはAIやDX化の流れを受けて2017年頃から大規模な行員のリストラ計画を発表して、人員削減には邁進(まいしん)しています。

 人件費という固定費を削減するのはリスクにはならないので、経営者も自信をもって進められるのですが、投資の側がわからない。いまだにITは情報システム部が担い、経営の下請け業務の域を出ていません。あくまでデフォルメですが、外国人投資家からはその姿勢が疑問視されます。

 そうなると、海外の投資家から見れば日本のメガバンクが成長するイメージがわかない。業績相応の株価しかつかず、結果として日本の銀行のPBRは1を大幅に割り込みます。

 自動車会社も同じで、今、業界としては脱炭素とAIのダブルチャンスが起きていて、仕事の領域を「自動車製造」から「モビリティービジネス全般」ないしは「エネルギービジネスへの進出」まで、いくらでも投資を広げられる状態にあります。

 にもかかわらず、トヨタが3兆円近い利益をたたき出しているのを筆頭に、自動車業界全般で過少投資の状態が続いています。これが海外の投資家にとっては不満で「利益を出さずに投資を3兆円増やせ」という怒号となり、ひいては株主総会で会長の不信任案がとりざたされるようになっている背景なのです。

 まあ、「日本企業なんだし、外国人投資家のためにビジネスをやっているわけじゃないですから」という意見もわかります。

 ただそれでも不安なのは、だからといって日本企業が投資を十分に行っていないことであり、そしてもっと恐ろしいことを言えば、それはアメリカ企業も実は同じなのです。