予断や偏見、思い込みを捨てて
素直に相手の話に耳を傾ける

日本人の「天気の話」を世界一流の雑談へ進化させるには? Google元人事に学ぶ【書評】世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』ピョートル・フェリクス・グジバチ 著、クロスメディア・パブリッシング、1738円(税込)

 では、戦略的な「dialogueとしての雑談」とはどういうものか。グジバチ氏が勧めるのは「自己開示」をメインにした雑談だ。

 世界の第一線で活躍するビジネスパーソンが、雑談を通して手に入れたいと考えるのは、以下の三つだという。

(1)お互いに「信頼」できる関係を築く
(2)お互いが「信用」できることを確認する
(3)お互いを「尊敬」できる関係を作る

 グジバチ氏によると、そのために有効な手段の一つが「自己開示」。プライベートな面も含め、自分の思いや価値観、興味、関心などを率直に相手に伝えることだ。

 まず自分のことを話し、相手がそれを素直に受け止められれば、互いの警戒心が解けて、心理的距離が一歩縮まる。そこで良い空気が作られれば、相手も自己開示しやすくなるだろう。そうしてお互いのことを知っていくことで、少しずつ上記の三つが達成できてくるはずだ。

 これを読んで本稿の筆者が考えたのは「天気の話そのものが悪いわけではなく、自己開示を混ぜると『戦略的雑談』として使えるのでは」ということだ。

「じめじめした日が続きますね。私はこんな湿気の多い日こそ、シャワーで済ませるんじゃなくて、逆にしっかり湯船に浸かるようにしているんですよ。湯上がりがさっぱりしますし、血行が良くなって体調も改善します。○○さんはどうですか?」

 これに対し、「そうですね」で会話を終わらせる人は、まずいないだろう。これだけでも、「ああ、こういう人なんだな」とだいたいの雰囲気まではわかる。

 ただ、注意しなければならないのは、相手が同様に自己開示をしてきたときに、否定や批判をしないことだ。「それは医学的には間違っていますよ」とか言ってはダメだ。

 グジバチ氏が言うのは、相手とは「無条件の肯定的関心」を持って向き合うべきであるということだ。「無条件の肯定的関心」とは、米国の心理学者カール・ロジャースが提唱した心理的態度のことで、相手の話を良しあしや好き嫌いで判断せずに、「なぜそのように考えているのか?」を肯定的に知ろうとすることだ。予断や偏見、思い込みを捨てて、「ああ、そういう考えもあるんだな」と素直に受け止めることが大事なのだ。

 したがって、もし筆者が雑談相手から「湿気の多い日こそ湯船に浸かる」という話をされた場合は、以下のように答えるだろう。

「へー、そうなんですか。私は、こういう時期はどうしてもシャワーを浴びちゃいますね。今のお話ですと健康を考えれば湯船に浸かったほうがいいのでしょうが、手軽さが勝ってしまいます。でも、いいお話を聞いたので、今度、湯船でゆったりする時間を作ってみますね。おすすめの入浴剤はありますか?」