異業界の相手に有効なひな形
「サイクル→トレンド→パターン」

 アドリブで話をしたり、ジョークを言ったりするのが得意な人ならいいが、雑談な苦手な人にそういう人は少ないだろう。ならば、前もって上記のような「ネタ」を用意しておくのが得策だ。

 それに加えて事前に持っておくべきなのが「相手の情報」だ。相手の好きなものや興味のあることを知っておいたほうが、会話をスムーズに運ぶための「ネタフリ」がやりやすい。

 ただ、調べてきたことをあまり表に出さないのがポイントだ。「たまたまネタを振ったら、相手が今まさにハマっていることだった」というように見せかけるのが、雑談の高等テクニックといえよう。

 グジバチ氏によれば、世界の一流ビジネスパーソンは、SNSをチェックしたり、同僚や友人、知人を通じて「相手はどんな人なのか?」を徹底的に調べたりした上で、ビジネスの「雑談」に臨んでいるのだという。

 調べる時間がなかったり、情報を集めきれなかったりした場合は、相手の仕事や業界周辺の話題から入るといいだろう。それでも、相手の業界についてまったく知識がなく、何のとっかかりも得られないことも考えられる。

 本書では、そんなピンチの際に使える「サイクル→トレンド→パターン」というひな形が紹介されている。

「サイクル」というのは、例えばファッション業界であれば、同じような流行が定期的に繰り返す現象を意味する。そのサイクルの最新のものが「トレンド」だ。

「パターン」とは、その業界特有のビジネスモデルのこと。ファッション業界であれば、例えばユニクロなどの「製造小売業」がこれに当たる。

 相手の業界のサイクル、トレンド、パターンはそれぞれ何かをうまく会話の流れに沿って尋ねるようにすれば、相手は的確な説明をしてくれるはずだ。それに対し、自分の業界のことを話し、どこが似ていて、どこが違うのか、なぜ違うのか、などといった話題で会話を膨らませることができる。

 これを本来の商談や打ち合わせのテーマになくても、本題に入る前の雑談でやる。そうすれば、スムーズに本題に入っていけるのではないだろうか。

 大事なのは、とにかく相手や、相手に関する事柄に興味と関心、好奇心を持つこと。とはいえ、もちろん警察の取り調べのようになったり、下世話な「探り」になったりしてはならない。プライバシーに配慮した上で、先に述べた「無条件の肯定的関心」をもって雑談に臨むといいのではないか。

 グジバチ氏は、無条件の肯定的関心に加え、相手に対する「empathy(エンパシー)」を持って会話することが大切と言っている。エンパシーは「共感」と訳されることが多いが、厳密には、自分と異なる考え方や価値観を持つ相手に対して、「相手が何を考えているのか?」「どう感じているのか?」を想像する能力を指すそうだ。

 昨今は対話型AIの「ChatGPT」が話題だが、どれだけ自然言語による会話の性能が上がろうとも、「ビジネスで役立つ戦略的雑談」をAIに任せるのは難しいと思われる。ぜひ本書で「人間ならではの雑談力」を身に付け、ビジネスの「武器」にしていただきたい。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

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