「働いているフリをする」「自分のことは棚にあげ、他人や会社への言い訳が多い」「仕事への意欲が感じられない」……あなたの身の回りに、このような社員はいないでしょうか。本稿では彼らを「働かないおじさん」と定義し、彼らが生み出される根本的な要因を探ります。本稿は、豊嶋智明『「働かないおじさん」を活かす適材適所の法則』(ぱる出版)の一部を抜粋・編集したものです。
1つの人財配置ミスが部下の大量退職を招く
人財配置を失敗すると、会社も従業員にとっても良いことが一つもありません。何故なら、従業員のモチベーションが低下し、生産性も悪化して企業の業績も上がらないからです。
配置ミスによって起きた悲劇を、東京のあるハウスメーカーの事例で説明します。そのハウスメーカーには、住宅を販売するのが得意である年間売上トップの営業マンのAさんという方がいました。会社はAさんの業績を認めて営業部長に昇格させましたが、Aさんが営業部長に就任してから2年間で、半分近くの営業マンが退職してしまったのです。
そのタイミングで、私はハウスメーカーの代表から依頼され、コンサルに入ることになりました。PI分析(※ひとり一人の従業員の個性や生き方を知ることで、適性に合った部署や業務がわかる評価法)を用いて、営業部長のAさんと営業部で辞めていった人を含む部下のメンバー全員の個性を分析しました。営業マンが辞めた理由をひとつ一つ分析し、詳細に検証したのです。
その結果、一番の大きな原因がはっきりしました。それは、営業部長のAさんは、後輩の指導をする適性があまりない「突撃隊長的役割」のプレイヤータイプ(PY)だったことです。
このタイプは、営業マンとしては向いており、新規のお客さんに飛び込み営業できる強いメンタルがあります。そして、持ち前のコミュニケーション能力でお客さんに可愛がられながら、成約して売上を上げるのが得意なタイプです。
一方、辞めていった部下の性格タイプを調べていくと、全体像を見て準備や分析を入念に行う「指揮官的役割」のプロデューサータイプ(PD)が多かったのです。つまり、Aさんは「準備に時間をかけるより、まずはお客さんの会社に飛び込んで営業しろ!」と言って指導したため、部下の営業マンは思ったような準備ができず、売上につながらなかったのが原因でした。部下たちは、自分の個性タイプに合わない方法を強要され、苦痛を感じて退職という最悪の結果を導いたのです。
このように、人財配置をミスすると業績が出ないだけでなく、従業員が退職することもあります。これは企業にとっては大きな損失であり、会社も従業員も不幸になりかねません。
人財配置は諸刃の剣であり、慎重に決めるべきでしょう。会社の方針で、社員を「働かないおじさん」にすることも、「エース社員」にすることも可能です。人財配置を変えるだけで、従業員のモチベーションも上がるため、生産性も向上して結果的に業績に反映されるのです。