危機管理担当は「誰が怒り、誰が悲しむのか」を想像しよう
企業の危機管理担当者が、ジュンさんのケースから教訓にしたいのは、「自社(経営者)が余計なことを言うと、誰が怒って、誰が悲しむのか」ということを冷静に俯瞰する必要性だ。
ジュンさんの場合、ちょっと想像力を働かせれば、自分が会見を開くことで、誰を怒らせて、誰を傷つけるのかはわかったはずだ。ジュンさん自身も認めるように、元スタッフとの間で女性をめぐって暴行やトラブルがあったのは事実だ。そんな因縁がある中で、ジュンさんが「不倫の被害者」というイメージを前面に押し出して、「聖人夫」ともてはやされたら、当然この元スタッフは不愉快に感じて「本当の姿を世間に教えてやる」となって告発するのは容易に予測できる。さらに妻・広末さんの過去やメンタルを公表すれば、子どもたちが傷つくのは目に見えている。
こういう状況を冷静に考えれば、ジュンさんがとるべき道は、「会見しない」か「会見しても、報道の自粛を呼びかけるだけで、広末さんのこれまでの行動や内面については言及しない」しかない。
ジュンさんが無言を貫けば事態は沈静化に向かっていただろう。しかし、「不倫サレ夫」が会見をしたことで大ニュースとなり、広末さんや鳥羽さんへのバッシングがさらに過熱した。つまり、寝た子を起こす形で、子どもへの誹謗中傷を長引かせたのである。
ジュンさんの会見を「よかった」と言っている人を見るといい。ワイドショーのコメンテーターやら、ネットやSNSで「家族を思う誠実な姿に感動しました」とか言っているのは、広末家とは関係のないアカの他人ばかりだ。今回のスキャンダルに巻き込まれた子どもたちは喜んでいるのか。母の不倫の常習性を全世界に公表されて、「お父さん、ありがとう」などと感謝するのか。
するわけがない。
このように「自分たちが世にメッセージを発したことで、誰が怒って、誰が傷つくのか」ということを想像することが、企業危機管理には必要だ。
マスコミや、無責任なやじ馬は、「会見を開け」「真実を話せ」と好き勝手に言ってくるが、「思っていることを素直にしゃべる=危機管理」ではない。もちろん、うそをつくことなどもってのほかだし、社会的影響のある事案は説明責任もある。
しかし、今回の不倫のように「傷つく人」が明確な場合、当事者は、むやみに会見を開かない方がいい。
「配偶者の不倫」によって、スキャンダルに巻き込まれたことのある佐々木希さんや杏さんはなぜ会見を開かなかったのか。彼女たちは誰を守るために沈黙を貫いたのか。「聖人夫」を持ち上げている人たちは、そのあたりをもう一度冷静になって考えた方がいい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)