「会社は株主の利益第一で動く」の株主主権論を今こそ再評価すべき理由Photo:PIXTA
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 本連載では、上場企業の代表やアセットオーナーなどへのインタビューを通じ、ステークホルダーとの対話や対外戦略におけるヒントを12回にわたって掲載している。4回目は、会社法に詳しい田中亘・東京大学社会科学研究所教授。

「会社は株主の利益第一で動く」の株主主権論を今こそ再評価すべき理由東京大学社会科学研究所 田中 亘 教授

日本は株主主権の限界より合理性に着目すべき

──今年の6月総会の株主提案数(344議案、6月14日時点)は、過去最多だった昨年(292議案)を上回りました。株主提案の内容が多様化・実質化する一方、紋切型の提案も多いとの指摘もありますが、急増する株主提案をどのように評価していますか

 会社は株主の利益を第一の目的として組織・運営されるとする、いわゆる「株主主権論」については以前から論じられてきた。昨今の日本の状況に鑑みれば、その限界よりもその原則的な合理性を重視すべきだろう。従って、株主のコントロール権が実効的に行使されている点で、株主提案については好意的に捉えている。アクティビストが株主還元を求める提案は確かに紋切型に見えるが、すべての会社に対して提案をしているわけではない。アクティビズムの標的となる会社は、剰余金が多かったり資本効率が低かったりと、相応の理由がある。

──近年では公益資本主義といった考え方も注目される中で、株主のコントロール権を重視する理由は何ですか

 私が研究者となった1990年代は、経済学者が日本型経営モデルについて活発に論じていた。今となっては違和感があるが、当時は、経営者は会社の生み出す価値をステークホルダー間で分配する裁定者であり、むしろ株主のコントロール権は持ち合いなどを通じて制限すべきとの考えが主流だった。その後、結果的に日本経済の低迷が続く中で、経営者を規律するメカニズムを重視するようになった。

 加えて、株主主権の考え方は合理的だ。将来のキャッシュフローが市場で株価に反映される限り、会社の長期的な企業価値を増進することは現在の株主の利益にもなる。もっとも、そのためには株式市場の効率性を高め、株主が長期的な視点で考えることを可能にする必要があり、その点で法制度が果たす役割は大きい。

──株式の持ち合いについては解消が進んでおらず、株式市場の効率性を高める障壁になっているとの声も多く聞かれます

 持ち合いは、株主としては反対したい場面でも、取引関係など株主の利益以外の動機から経営陣に賛成する議決権行使をしてしまう点で問題がある。会社側へのアンケート調査でも、特に資本金の規模が小さいほど依然として安定株主比率が高い企業が多く、持ち合いの解消は道半ばだ。

 持ち合いそのものを法的に規制するのは難しいが、例えば、株主総会決議を経ていわゆる買収防衛策を発動した場合に、裁判所が持ち合い株主の利害関係を考慮に入れるというのも考えられる。持ち合い株主を除いた多数の株主が反対している場合は、裁判所としてその買収防衛策は不合理だという方向に傾く、といった具合だ。裁判所として、持ち合いを手放しに許容するのではなく、「法的な判断を下す上で何らかの考慮をする」というメッセージを発するのは一定の意味があると考えている。