左派野党の退潮が進む中で
市民団体が力を増す矛盾

 ここしばらくの間は、「保守派」の代表的政治家であった故・安倍晋三元首相が憲政史上最長の長期政権を築くなど「自民一強」が続き、一方で立憲民主党、共産党など左派野党は衰退の一途をたどってきた。

 にもかかわらず、従来は左派野党と一体となって活動してきたはずの「マイノリティーの権利保障」を求める市民運動は、以前よりも積極的になっている。

 自民党が力を強め、左派野党の退潮が進む中で、市民団体などが勢いを増しているという、この矛盾した状況はどう理解したらいいのだろうか。

 本連載では、今の左派野党は自民党の「補完勢力」と化していると主張してきた。その原因は、安全保障政策を除く政策面での自民党の「左傾化」にある(第308回)。

 自民党は安倍政権以降、「全世代への社会保障」「子育て支援」「女性の社会進出の支援」「教育無償化」など、本来であれば左派野党が取り組むような社会民主主義的な政策を次々と打ち出してきた。

 現・岸田文雄政権では、「新しい資本主義」という経済政策のコンセプトを掲げ、アベノミクスが置き去りにしたとされる中小企業や個人への再配分を強化しようとしている(第305回)。

 その他の岸田政権の政策を見ても、「異次元の少子化対策」や物価高への対処などは「富の再分配」に近い側面を持っている。これらを打ち出した結果、国民の目は「政府は次に何をしてくれるか」に集中し、実際に予算を扱えない野党の存在感は薄れてしまった。

 これは、「包括政党(キャッチ・オール・パーティー)」という特徴を持つ自民党のなせる業だ(第169回・p3)。

 要するに、自民党は政策的には何でもありの政党である。野党との違いを明確にするのではなく、「野党と似た政策に予算を付けて実行し、野党の存在を消してしまう」というのが自民党の伝統的な戦い方であり、左派野党は存在意義を消されてしまった。

 そして、このような動きが加速するにつれて、国会外では「マイノリティーの権利保障」を求める市民団体の活発化が進んできた。

 中でも注目すべきは、700万人の加盟組合員がいる労働組合の中央組織「連合」(日本労働組合総連合会)の動向だ。

 昨今の連合は、労働運動家の芳野友子氏が21年10月に会長に就任してからは、自民党への接近も目立っている。また、労働者の支援や企業との交渉にとどまらず、男女間賃金格差の是正やジェンダー平等の実現にも力を入れている。