6月16日の金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田和男総裁6月16日の金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田和男総裁 Photo:JIJI

海外の中央銀行が再びタカ派姿勢を示しているのに対し、日本銀行はハト派的な政策を続けている。このため、円は幅広い通貨に対し下落しているが、バークレイズ証券の門田真一郎チーフ為替ストラテジストは、円安が勢いづく中でも、中期的な円高シナリオを維持している。その理由を解説した。

「ハト派」の日本銀行が
幅広い通貨への円安を誘発

 このところ円相場には、昨秋よりと比べ幅広い通貨に対して下押し圧力がかかっている。ドル/円相場は年初来高値を更新しているものの、依然として昨年の152円台の高値を大きく下回る。

 一方、ユーロ/円、ポンド/円、スイスフラン/円などの主要なクロス円ペアは、既に昨年の高値を上回る状況だ。その結果、円の名目実効為替レート(NEER)は昨年10月の安値に近づいている。

 こうした幅広い通貨に対する円安は、日本銀行と他の主要中銀との間で、「金融政策の乖離」が再び広がったことを反映している。

 主要国の銀行システムに対する懸念が薄れ、インフレが根強く続く中、日銀以外の主要中銀は再びタカ派的な姿勢を強めている。このような内外金融政策の乖離は、外国人投資家と国内投資家双方のポジションの変化を招き、それが最近の円安を促進したとみている。

 海外投機筋については、ここ数カ月で円のロングポジション(買い持ち高)を解消した可能性が高い。振り返れば、本邦当局による昨年9月と10月の円買い介入、さらには日銀によるイールドカーブ・コントロール(YCC)の許容変動幅拡大という昨年12月のサプライズを受けて、外国人投機筋は昨秋から円のショートポジション(売り持ち高)を解消、その後一転してロングポジションを積み上げてきた。

 そして、日銀の予想外の政策修正は、一段の政策正常化に対する期待を生んだ。黒田東彦前総裁が2016年に採用したYCCの枠組みに批判的とみられていた植田和男氏が4月に日銀新総裁へ就任すると、そうした見方に拍車をかけた。

 YCC早期終了への市場の期待に反して、植田総裁は政策変更とインフレ見通し(日銀は、秋にかけてインフレ率が2%以下に減速するが、その後反発すると予想している)を結び付けることで、慎重な政策スタンスを強調した。

 さらに、国債市場機能の低下という副作用を巡る懸念が和らぎ、追加的な政策調整の緊急性が薄れた、市場ではYCC修正が近いとの見方が弱まった。結果として、円のロングポジションの解消が進むだけでなく、ショートポジションに切り替え、円を(低金利通貨を借りて金利の高い通貨に投資する)キャリートレードの調達通貨とする動きも出ているようだ。

 日銀がハト派的な政策スタンスを維持する限り、円安圧力は続く公算が大きい。しかし、当社は中期的な円高シナリオを維持している。以降では、その理由について解説していく。